ずるい?
椋亮がおもむろに立ち上がる。
その様子を眺めていると、どきりと心臓が動いた。
すぐそばに来た椋亮は、たくさん並べられたプリンを見る。


「これスタッフ全員分あるのか」

「う、うん。あの、さ、撮影用に、六つと、残りのこっちがスタッフさん分」

「そうか。食べるのが楽しみだ」

椋亮が小さく笑うのが見えた。
プリンの香りと椋亮の香りが混じる。
時間が早く流れるように感じた。


「あ、味見…する?」

「魅力的なお誘いだが、撮影の時に食べたい」

「…そ、っか」

少しだけ、切なくなった。
目の前で…。
ニコだけの前であの笑顔を見せて欲しかった。
それでも、そう思うことだけでもおこがましいと思い直して首を振る。
テーブルにいっぱいになったプリンを見て、心が落ち着くように胸を撫でた。


「ニコ」

「な、何」

「…いい喫茶店を見つけたんだが、今度一緒に行かないか?」

「…いいの?」

「もちろん。ひとりで行くのも好きなんだが、ニコとこの間一緒に行った時楽しかった。よかったら一緒に」

「ほ、本当に? いいの?」

ニコが顔を上げて椋亮を見上げる。
まともに顔を見るのもドキドキとした。
それでも、椋亮が優しく微笑んだのが見えて、ニコも思わず微笑んだ。


「う、嬉しい…っ」

口元を押さえてそう言うと、椋亮はまた今度な、とニコの頭に手を置く。

リビングの方から椋亮を呼ぶ声が聞こえてきて、椋亮はニコの頭を撫でてからその場を去った。
椋亮が去ったキッチンで、ニコは撫でられた頭に手を乗せる。
ぬくもりが残っているようで、同じように撫でてみた。


「…っ、わがままになっちゃうなぁ…」

ただのファンだったのに。
ただのファンなのに、椋亮に存在を認めてほしいと思ってしまう。
それから触れてしまいたい。
触れてもらいたい。
椋亮の特別になりたい。
そんなことすら思ってしまいそうだった。

テーブルに並んだいくつものプリンの中を見つめていると、甘い甘い気持ちにドロドロと溶けていきそうだ。


「こんなの、ずるいや…」

小さな声で呟いて、ぎゅっと胸元をつかんだ。
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