デザートは
まだ日が上りきらずほんのりと明るくなり始めた灰色の空の光が窓から入る。
ロケ現場のキッチンでニコは、父に昨晩頼まれたプリンを作っていた。
鍋に火をかけ、カラメルソースをゆっくり作る。
美味しいって、もう一度笑ってもらいたい。
窓を開けて、朝の涼しい風を感じながら、心の中でそっと思った。



「イメージが昔の懐かしいプリンって本を読んで思ったから、卵多めの固めのプリンにしたけど…、どうかな」

お日様が昇ってから、出来上がったプリンを父に渡す。
型から取り出したプリンは皿の上で揺れる。
ほんのりと甘い卵の香りがした。


「いいね。食べても?」

「どうぞ。いつも作る感じと違ったから、どうかな」

「…ん、美味しいよ。ニコちゃん。奥の方からほんのりと甘いのが来て、食べれば食べるほど、甘くなるから、懐かしい味だね」

「そう。どうかな、パパのイメージ通り?」

「うん、もちろん。お世辞なしでね」

味見をした父が嬉しそうにした顔を見て、ニコを頷く。
今日の撮影に関わる人の分も作ろうと思い、使っていた鍋や泡立て器を洗った。


「撮影始めるの、夕方だから、撮影用のも夕方にできあがるくらいにお願いね」

「うん」

カラメルソースが出来てから、携帯を取り出して、イヤフォンを耳にさす。
いつも聞いてる音楽を流しながら、もう一度作り始めた。


夢中で作り続けていたら気づいたら、お日様が沈みかけていた。
いつも聞いてる曲は何回ループしたのだろうか。
そう思いながら、曲を止めてイヤフォンを外した。
喉の渇きを感じて携帯をキッチンの作業テーブルに置き、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
不意に人の気配を感じて振り返った。


「あっ」

思わず声を漏らして、後ずさる。
作業テーブルの向かいの椅子に椋亮が腰をかけて台本を読んでいた。
あまりにもびっくりして、シンクに腰をぶつけて小さく唸る。


「大丈夫か」

台本から視線を移さずそう問いかけてきた椋亮に小さな声で答えた。
椋亮は昨日のことは気にしていないのか、あまり変わらない態度でニコは少しだけホッとする。
椋亮は台本を足元に置いた鞄の中にしまいニコをまっすぐに見つめた。


「料理をするときはいつもああなのか」

「へ…?」

「とても集中していた。何回か声をかけたが、こちらに少しも気づかないから驚いた」

「…、あっ、あの、どれくらい…」

「朝から日が沈むまで」

カァっと頬が熱くなるのを感じて、ニコは持っていたペットボトルを落とした。
何も考えず無になりながら永遠とプリンやお菓子を作っていたから、自分がどんな風に料理を作っていたのか想像なんてつかない。
もしかしたら、鼻歌でも歌っていたかもしれないと思い、恥ずかしさで穴があったら潜りたいくらいだ。


「それに」

「…そ、それに」

「歌っていた」

やっぱり。
心の中でそう叫び、ニコはどうしようもないくらい恥ずかしくなる。
そばにあったレシピノートで顔を隠して、小さくもう一度唸った。


「懐かしい曲だったな。俺が一番最初の仕事で使われてた曲」

「…っ」

ノートをずらし椋亮を見る。
椋亮はニコをまっすぐに見つめていた。
その視線から目をそらせずに、ニコも椋亮を見つめる。
綺麗な瞳に、思わず息を飲んだ。
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