止まらない鼓動
「…綺麗だったな」

ベッドの上で、あの時の様子を思い返す。
泣き出してしまいそうなくらい幸せそうな笑顔。
演技なのか、それとも本心からなのか、全くわからないくらい綺麗だった。


「すごく、」

ゴロンと寝返りを打って、携帯を開く。
大好きなCMの写真を開いて、眺めた。
あの時に見れた笑顔と、この写真の笑顔は少し違う。
彼を少しだけ垣間見れたような、笑みだった。

「…ドキドキして止まらない。これって、もしかして…」

もしかして、もしかしなくても。
これは、きっと恋なのだろう。


ノックの音が聞こえ、ニコはベッドに腰をかけ携帯を閉じる。
返事をすれば父がすぐに入ってきて、ニコの隣に腰をかけた。


「どうだった、今日の料理の手応えは」

「いつもより、美味しくできたと思う…」

なんだか父に答えるのが恥ずかしく思い、小さく答えて笑った。
父には全てバレているような気がして目を合わせられない。
ベッドに置いておいた携帯に指先が触れて握り締めた。


「ニコちゃん、次からもよろしくね」

「…うん」

「楽しみだね、次の撮影も」

「うん、とても」

もう一度、彼に自分の作った料理を食べてもらえる。
それはきっともう、この撮影の期間でしかない。
手に握りしめた携帯をもう一度握りしめてニコは頷いた。


「ねえ、パパ」

「ん? なあに」

「パパは…、ううん、なんにもない」

止めた言葉を飲み込んでニコはもう寝るね、と伝えた。
立ち上がった父の背中に手を振ってから、タオルケットの中に入る。
ぎゅっと握った携帯をもう一度開いて、父が来る前までに眺めていた写真を見た。


「恋って、こんなにドキドキするものなんだ」

そっと携帯の写真に額を寄せる。
恋だと気付いたのは今だけれども、これはきっとあの時からずっと、抱いていた思いなのだろう。


「どうしよう。ただでさえうまく話せないのに。…ドキドキして、もっとうまく話せなくなる…」

携帯を閉じて、リモコンで部屋の電気を消した。
もう眠ろう。
そう思い、ニコは瞼を閉じた。
prev | next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -