ラブラブチョコレート 17'
ほわほわララバイから

「ただいまー」

チョコレートの甘い香りがした。
濃厚な甘い香りと、時折コーヒーの香りがする。
玄関でコートを脱ぎ、コート掛けにかけた。
それから、リビングへ向かえば甘い匂いが増す。


「ただいま。おっと」

太ももにきた衝撃にうつむけば、むくが抱きついてきていた。
バッと顔を上げたむくはニコニコ笑いながら、おかえりっと大きな声で挨拶をくれる。
ふわふわの猫っ毛を撫でてから、キッチンの方へ視線を移せば、汰絽が振り返った。


「お帰りなさい」

「ただいま。甘い匂いが玄関までしてた」

「ふふ、今日はバレンタインデーですからね。風斗さんとむくに強請られたので、ちょっとケーキ作ってました。風太さん用に甘さ控えめのものも用意してありますよ」

楽しそうに笑う汰絽に、風太も思わず笑みをこぼした。
手洗いをしてからすぐにリビングに戻ってくる。
むくを抱き上げてから、キッチンへ行くと小さなカップケーキがたくさん並んでいた。


「親父もむくも甘いの好きだもんなー」

「ええ、作りがいがありましたよ」

「そうか。それは良かった。夕飯は?」

「夕ご飯は、お鍋ですよ。トマト鍋〜」

「おしゃれなの作ったな」

鍋の蓋をチラッと開けてみるとトマトのいい香りもした。
色々な匂いが充満して、汰絽は思わず笑ってしまう。
笑いながら窓を開けて換気してから、風太はカセットコンロをダイニングテーブルにセットした。


「よし、鍋こっちに移しておいてもいいか」

「ええ、是非。食器移して、風斗さん呼べば、いつでもたべれますよ」

「むく、親父呼んできて」

「はーい」

トタトタと足音を立てて走って行くむくの足音を聞きながら、ふたりは食器の準備を終えた。
全員がついてから、手を合わせる。


「いただきます」





「ふー…、風呂、気持ちよかったな」

「そうですね。今日は柚子湯にしてみたので、とても気持ちよかったですね」

「むくは今日は親父のとこで寝るみたいだから静かだな」

そんな風に話しながら、ふたりは風太のベッドに腰を下ろした。
汰絽はもう一度立ち上がって、ちょっと待っててください、と部屋を出て行く。
それから、すぐに戻ってきた汰絽は風太の部屋のテーブルにコーヒーとチョコレートケーキを乗せた。


「バレンタインですよー」

そう言ってテーブルにセットした汰絽に風太は思わず笑ってしまった。
付き合ってから2回目のバレンタイン。


「今年も好きですよ。来年も、この先もずっと」

なんでもないようにそう囁き、カーペットに腰を下ろした汰絽を見つめる。
それから、すぐに風太も汰絽の隣に腰を下ろした。


「どうも。俺も、好きだよ。来年も。この先もずっと、それこそ、おっさんになっても、じいさんになってもな」

そう言って笑えば、汰絽も笑った。
チョコケーキをフォークで刺して口元に運ぶ。
口に広がった苦味とほのかな甘みが美味しい。


「汰絽も」

フォークですくったケーキを汰絽の口の中に入れる。
ニコニコしている汰絽も、美味しいと声を上げた。


「今日はお泊まりしていきますか」

「お泊まりしていきます。たくさんお話ししたいです」

「…ああ、俺もだよ」

ふたりは軽く唇を寄せ合い、笑いあった。

end
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