バレンタインデー 16'
「茉耶ちゃん、この時間に出歩いてても大丈夫なの?」

隣を歩く彼に言われて茉耶は足を止めた。
少しでも可愛いって言われたくて、身に着けた女の子らしい可愛い仕草。
両手で持った鞄の中を思うとまだ帰れない。
それに、まだ、帰りたくない。
立ち止った茉耶の方を振り返った彼は微笑んだ。


「不安にさせた? ごめん」

「う、ううん、大丈夫。ちゃんと、遅くなるって言ってきた。それに、ちーくんとって言ったから」

「そっか。…俺に預けるほうが危ないのにね」

口角をあげて笑う彼にドキリと胸が高鳴る。
茉耶は頬が赤くなっていくのを感じながら、俯いた。
優しく呼ぶ声に胸はますます高鳴っていく。


「寒くなってきたし、足元も悪いからお店に入ろうか。転ぶと悪いから手を貸して」

「うんっ」

少し先に立つ彼のそばに寄って、差し出された手に手を重ねた。
いつ気付いてくれるかな、と思っていたネイルに彼はなかなか気付いてくれない。
寂しさを感じながらも彼の手の温かさにほっとした。


「ん〜、どうしよ、こっちもいいし…」

「どれと迷ってる?」

「ん、このチョコのとキャラメルので迷ってる。…ちーくんもう決めた? 先に頼んできても…」

「うん、決まったよ。茉耶ちゃんもおいで」

「あっ」

手を引かれてレジカウンターに連れていかれる。
頬が彼の腕に当たるくらいの距離でドキドキとしていると、彼が注文を始めた。
待って、と止める間もなく注文が終わって会計も済んでしまう。
注文が終わってオレンジ色のランプまで連れてかれてしまい、茉耶は呆気にとられた。


「ちーくん、いいの?」

「何が?」

「お待たせしましたー」

「あ、茉耶ちゃん受け取って」

「わ、うんっ」

彼に言われたまま店員さんから商品を受け取って、両手がふさがる。
おいで、と呼ばれるままにあいている席に連れていかれた。
カップを置いてからスカートを押えながら腰を下ろす。
目の前に座った彼は茉耶を見て小さく笑った。


「ちーくん、これでよかったの…?」

「いいよ。茉耶ちゃんどっち先飲む?」

「あ、チョコ…!」

「はは、どうぞ」

彼に渡されたホットチョコレート。
温かく、少しだけ苦い甘さが口の中に広がった。


「おいし…、ちーくんも」

「ありがと。」

彼がホットチョコレートを飲むのを眺めながら、膝の上に置いた手を眺めた。
淡いピンク色と白い小さなハートをあしらったネイル。
今日は帰りたくないな、なんて思いながら、手をぎゅっと握った。


「茉耶ちゃん?」

「あ、のね、ちーくん、茉耶、チョコ作ってきた。先輩と、みーちゃんと」

「俺に?」

「うん、あのバレンタインでしょ?」

そう言いながら、鞄から綺麗に包装されたチョコレートを取り出した。
トン、と机に置いて、彼を見つめる。


「あとね、バレンタインだから、特別にネイルしてもらった。…可愛いかな?」

「ん? あ、本当だ」

「ちーくん、もっと近くで見て?」

すっと近づいて、爪を見せる。
少し驚いたような彼の表情に、茉耶は顔に熱がともるのを感じた。
テーブルに置かれているチョコレートを手に取って、差し出した。


「はい、チョコ。ちゃんと味見して、美味しかったから。…食べてね」

「…」

嬉しそうに笑った彼に、茉耶はすぐに顔を離した。
膝に手を置いて、また俯く。


「茉耶ちゃん」

「な、なに」

「ありがと。嬉しいよ」

「…う、うん」

そっと彼を見ると、彼は少し耳を赤らめて頬を緩めていた。
そんな彼に思わず笑みが浮かんできて茉耶も微笑む。
良かった、と心の中で呟いてから、茉耶はホットチョコレートを飲んだ。


「今日、親いないんだけど、泊まりに来ない?」

「いいの?」

「もちろん」

「待ってて、電話して聞いてみる…!」

携帯を手に喧噪の中を出る。
電話をしながら、今夜のことを考えた。

Happy Valentine
2015.02.14
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