家族旅行
「みんなで家族旅行行こう」
退院して来てから一ヶ月が経ち、生活も安定してきた。
夕飯を終えて、あとは眠るだけの準備をしてリビングのソファーでくつろいでいたら、風斗が突然大きな声で言った。
旅行という言葉にむくが嬉しそうに小躍りするのをみて、汰絽と風太は顔を見合わせる。
「どこかいきたいとかあるかい?」
「むく、遊園地行きたいっ」
「いいね、遊園地。汰絽くんと風太は?」
「俺も遊園地でいいと思う。むくが喜びそうだし」
「ぼ、僕も、遊園地行ってみたいです…!」
キラキラに輝いた汰絽とむくの瞳に風斗と風太は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
嬉しそうな様子は風斗にとってはとても嬉しいことで、突然の思いつきもいいものだと思う。
次の土日を旅行日と決めこの日に行こう、とカレンダーに丸をくれた。
「楽しみだね」
満面の笑みを浮かべたむくに嬉しくなって、風斗はむくを抱きしめた。
旅行当日。
風斗の運転する車に揺られ少し遠い遊園地にやって来た。
車の中ではチャイルドシートに乗ったむくが嬉しそうに歌を歌っていた。
車から降りるとうんと背伸びをした風斗をみて、汰絽がすぐに近寄る。
「お疲れ様です。運転ありがとうございました」
「どういたしまして。退屈じゃなかった?」
「もちろんです。むくの歌を聴いたり、風斗さんの運転する車心地よかったです」
優しく笑った汰絽に風斗も笑みを漏らした。
それから、チケットを買って、遊園地の中に入る。
中に入ったむくはきゃーと嬉しそうな声を上げて笑った。
身長制限のない乗り物しか乗れないが、嬉しそうなむくの姿を見ればこれは楽しいなと思う。
すぐに出迎えてくれたウサギのマスコットキャラクター達に囲まれて、嬉しそうに笑うむくと汰絽に風太は笑った。
「3人で過ごしてた時はさ、近くの水族館とかしか行けなかったから。あんなに嬉しそうな顔見れて親父が帰って来てよかったな、って今すげー思った」
「そっか、それでも3人でもお兄ちゃんしてたんだな、風太」
「まあな。家族だし」
「大きくなったなぁお前も」
そう言った風斗の大きな掌が風太の頭を撫でた。
久しぶりのその感覚に、風太も小さく笑った。
「むくあれ乗りたい」
ぐるぐる回っているコーヒーカップを見て、むくが指差した。
よし行こうかとむくを抱き上げた風斗の後ろを歩く。
隣を歩いている汰絽が嬉しそうにその姿を眺めている。
「たろ」
「はい」
「…もう、寂しくないか」
「…えっ?」
パッと顔を見上げた汰絽の顔がキョトンとしていて、思わず笑う。
風太の質問をようやく理解したのか、ふわりと笑顔を浮かべた。
「もう、寂しくないです。みんながいますから、風太さんがいますから」
そっと手を差し出してきた汰絽に、風太も笑みを浮かべた。
それから、その手を取りぎゅっと握る。
小さな手のひらは少しだけ大きくなっていたようなきがした。
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