パパ
幼稚園から帰ってきたむくは、リビングでずっとお絵描きをしている。
何を書いているのか汰絽が問いかけても、教えてくれず、見ちゃダメなのと怒ってしまった。
汰絽はむくに謝ってから夕食の準備に取り掛かろうと、腕まくりをする。


「汰絽、夕飯何?」

手洗いをしていると、風太が部屋から出てきたのか、隣にやってきた。
むくから見えない位置で体がふれあい、汰絽は小さく笑う。
風太を見れば、同じように笑っていた。


「夕飯はシチューにしようかと思って。今日は寒いですから」

「そうだな、手伝おうか」

「ええ、お願いします」

優しく頬を撫でられて、そっとその頬に擦り寄る。
それから、夕飯を作る準備を始めた。


「むく、5歳になったらよく話すようになったな」

「ふふ、そうですね。今日も幼稚園であったことたくさん話してくれましたよ」

「嬉しそうだ」

「もちろん」

優しく微笑む汰絽に、風太は愛おしさを感じた。
リビングにいるむくを見ると、絵を描き終えたのかその絵を一生懸命くるくる丸めている。
上手にできないのか何回も丸め直していた。


「たぁちゃーっ」

うまくできなくてイラついたのか、むくは大きな声で汰絽を呼んだ。
料理の手を止めた汰絽はむくの元に行く。
すぐにむくのところに行くと、むくはんーっと途中まで丸めた紙を渡してきた。


「ぐるぐるして〜。これでぐるぐる〜」

どこからか持ってきたリボンと、むくの描いた絵を汰絽はむくに言われた通りにぐるぐるにして結ぶ。
手渡すと、むくはニカッと笑ってリビングに戻っていった。
それからソファーにちょこんと座っていい子にしている。


「ぱぱまだかなー。まだかなー」

「パパ?」

「むうのぱぱ!」

むくが嬉しそうに持っていたぐるぐるに巻いた紙を前に突き出す。
それからぎゅっと抱きしめて、嬉しそうに笑った。


「風斗さんのことかな」

「たぶんな。昨日むくと親父がふたりで買い物行った時に、カッコいいパパだねって褒められたって親父がデレデレしてた」

「ふふ、むく、それでお父さんって」

「ああ。親父泣いて喜ぶだろうな」

おそらくむくの描いた絵に思い当たって、ふたりは顔を見合わせて笑った。



「ただいまー」

玄関から少し疲れたような声が聞こえてきて、ふたりはリビングのむくを見た。
その声にピンと背筋を伸ばしたむくに思わず笑う。
リビングに入ってきた風斗を見て、むくが駆け寄った。


「ぱぁぱおかえりなさい」

うんと風斗に向かって持っていたプレゼントをまっすぐに伸ばす。
パパと呼ばれた風斗は一瞬ぽかんとしてから、汰絽と風太に視線を向けた。
目のあったふたりは小さく笑う。
その様子に風斗はすぐにむくに視線を向けた。


「ぱぱ」

一生懸命プレゼントを渡そうとしているむくを見ると、心に色々こみ上げてくる。
プレゼントを震える手で受け取って、むくを抱き上げた。


「パパにくれるの? 私の可愛いむくくん」

「うん。風斗はむうのパパでしょ?」

「そうだよ、むくくんのパパだよ」

そう囁くとむくが嬉しそうに笑う。
それから小さな腕が風斗に回ってぎゅっと抱きついた。


「パパ、大好き」

「むくくんっ」

風太が言ったように泣きながらむくをぎゅっと抱き締める風斗に、汰絽は思わず笑ってしまう。
幸せそうな姿に、汰絽も風太も胸が締め付けられるような幸せを感じた。

end
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