夏スイーツとやわらかな
拍手お礼文『いたごち』から(09/10〜01/01)
「冷蔵庫の中の好きに使っていい」
と父に言われ、豊富な材料をキラキラした目で見つめた。
ひんやり冷えた桃が目に入り、最近録画していてやっと見た番組で作られていたデザートを思い出す。
「ピーチメルバ、作ってみたいな」
小さくつぶやいて、冷蔵庫の中の材料を見る。
足りないものはない。
好きに作ろう。
そう思ったニコは、桃を取りだした。
「種を取ってと、確かレモン汁つければ変色防げるんだっけ…。よしっ」
シロップとバニラビーンズを袋に入れ、切った桃を入れる。
鍋の中で煮て、粗熱を取ってから冷蔵庫に入れた。
「一晩置かなきゃだから、明日もう一回来てもいいかパパに聞かないと」
「誰かいるのか」
不意に声が聞こえてきて、ニコは後ろを振り返った。
ドアを開けて入ってきたのは椋亮で、びくりと体が大きく揺れる。
それから、次に作ろうと思っていたレモンのゼリーのレモンをカゴから落としてしまった。
「大丈夫か」
そばに寄ってきた椋亮が一緒になって拾ってくれる。
最後のひとつのレモンを拾うとき、指先が触れ合ってニコはさっと手を引いた。
「ご、ごめん、なさいっ、」
「気にしなくてもいい。…何か作ってるのか」
「え、あ、…、ぴ、ピーチメルバ…」
小さな声で呟くと、椋亮が目を見開いた。
それから、ニコをまっすぐに見つめる。
「ピーチメルバも作れるのか。ニコはなんでも作れるんだな」
「…っ」
椋亮の言葉にふるふると首を振ってから、ニコはすぐに立ち上がる。
それを見て、椋亮も立ち上がって、カゴの中にレモンを入れた。
「桃のコンポート作るんだったら、一晩寝かせるだろう? 明日も来るのか」
「パパがいいって言ったら、来るつもり…」
「そうか。じゃあ、明日、俺も来よう。ちょうど休みだし」
「えっ」
「ダメか。勝手な考えだけど、食べさせてもらうつもりだった」
「ンっ」
ぎゅっと口をつぐんだニコはブンブンともう一度首を振る。
それからだめじゃない、と小さく呟き、椋亮を見た。
椋亮は嬉しそうに微かに笑ったが、すぐに表情が元に戻る。
少しだけ見えた笑みに嬉しくなってニコはもう一度笑う。
「じ、時間かかるけど、レモンゼリー、作ろうと思って…、食べる?」
「いいのか」
「も、ちろんっ」
「そうか、なら頂く。作るところ見てても?」
「退屈じゃないなら…」
椋亮の言葉にニコはもう一度頷いてレモンゼリーを作り始めた。
夏のスイーツが出来上がったら、やわらかな涼しさの部屋でこの人と食べたい。
クーラーの効いた部屋で夏の暑さを窓から感じながら、ニコは心の中でそっと思った。
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