春が来た
拍手お礼文『ロマンスグレーになって』から(16/03/15〜16/06/20)
「あ、直樹、待って」
後ろを歩いていた素直から声をかけられ、直樹は足を止めた。
振り返ってみると、素直が公園の中を覗いている。
今日は久しぶりに日が照っていて、とても暖かった。
小さなこどもたちが公園の中をのびのび遊んでいて、微笑ましい光景が目に入る。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
そう言って笑った素直はまたゆっくりと歩きだす。
隣に来た自分より頭一つ分下にあるつむじを見つつ首を傾げる。
やけに嬉しそうな素直が可愛らしく小指を摺り寄せてきたのを、くすぐったさで感じた。
「甘えただな」
「んー、そんなことないかなー」
暖かな日差しに顔を少しだけ染めて、笑っている素直が可愛い。
心の中ででろでろに甘い言葉を思い浮かべながら、仕返しをするようにその小指に自分の小指を絡めた。
「なおき、くすぐったい」
「仕返し」
「ふふ」
「嬉しそうだな」
そう言うと、素直はまた足を止めてニコニコと笑った。
照れ屋な素直にしては今日はやけに甘えただ。
「春だからね」
「春だからか。俺の恋人は春になると素直になるからな。…素直だけに」
「ふふ、面白くない」
「上手くなかったか?」
「上手くない」
そう言いながらもけらけらと笑い声を漏らす素直に、直樹もつられて笑う。
空を見上げれば、きらきらと太陽が輝いている。
ポカポカとした日差しの心地よさに胸が躍る気分になった。
隣の恋人につられているのか、そう思うとまたくすぐったさを感じた。
「素直君につられて、うきうきするなー」
「うきうきはしてないよ」
「そうか? さっきからずっと笑ってる」
「だって、春だからね」
「春だからか」
また足を止めた素直は眩しそうに空を見上げた。
そんな素直を眺めていると、きらきらとひかりを浴びて綺麗に見える。
きめ細かい肌のひかりに、目を細めた。
「直樹、好きだよ」
「はは、俺もだよ」
春は人を浮かれさせる。
そんな風に思い、直樹は思わず笑い声を零した。
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