桜
嫌いな奴ができた。
どこかで見たことがあるような気がしていたけれど、桜はその子が誰なのかを思い出した。
中学生二年生の時、今の学園に来たように、桜は転校した。
親の転勤が理由での転校だった。
そこの学校は男子校で、小柄で不本意だけれども母親似の甘い顔立ちは、誰からも愛され、声をかけられるようになった。
もともといた中学校では、女顔でいじめられていたから、桜にとってそれはとても嬉しいことだった。
みんなにまっすぐに言葉をかければ、桜が正しいと笑って一緒にいてくれた。
小さな世界で、桜は王様やお姫様みたいな特別になったような気がしていた。
「桜っていつも笑ってて、楽しそうだよな」
「そんなことないって!」
「明るいよなー」
毎日楽しくて仕方なかった。
今まで自分のことをいじめてきていたようなグループの真ん中で、笑っていられるんだから。
自分が頼めば、なんだってしてくれた。
桜は一緒にいてくれるみんなが大好きだった。
幼い性欲を満たし合うことだって、できたのだから。
だから桜は真ん中にいたかった。
真ん中にいれば、桜はいじめられない。
いじめられないどころか、自分がやられたようなことを、ほかの人にできたから。
毎日が楽しい、それでも、桜はあることに気づいた。
このクラスの一番は、桜ではないということを。
その子が笑い声をあげれば、教室は静かになって耳をすませた。
その子の笑顔が見たくて、みんなの視線は桜じゃなくてその子へ向かった。
その子の一挙一動がクラスを動かしていた。
「…そっか」
いなくなっちゃえばいいんだ。
桜が真ん中に、一番にならないのなら、その子がいなくなってしまえばいいんだ。
桜はそう考えた。
「だって、みんな俺のことが大好きだもんね?」
桜はいつもよりうんと小さな声で、誰にも聞こえないように呟いた。
クラスメイトをけしかけてみたけれど、その子の隣にいる人を恐れて、いざとなったらしっぽを巻いて逃げられた。
そのことに苛立って、クラスメイトを正そうと思って大きな声を上げた。
でもみんな眉をひそめて、桜から離れていってしまった。
桜は一番じゃないといけない。
真ん中にいないといけない。
それに、なんで、その子にはかっこいい人が王子様みたいに、特別みたいに寄り添ってるんだろう。
桜にはいないのに。
桜にはそれが許せなかった。
どうしようか考えながら、廊下を歩いてたら、ガラの悪い人たちとすれ違った。
その人たちは、桜の嫌いな子の話をしていた。
桜は嬉しくなった。
その人たちがその子に意地悪をすれば、その子はきっとここにいれなくなる。
そうすれば、桜が教室で一番になれる。
そう信じて、桜はその人たちに声をかけた。
「ねえ、その子俺が呼び出してあげるよ!!」
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