初めて
ふたりは家から近くにある男子中学校に通うことになり、成績順で決まるクラスも問題なく一番上のクラスに決まった。
そうして、普通の生活を送ることになったふたりは、それでもほかの人とは一線をおいて過ごしていた。
心路と古道、お互いにふたりだけでいい。
その気持ちは何一つ変わらなかった。
教室で、白いYシャツを見つけている心路は儚げで、声変わりでかすれている声も甘やかだった。
周りの視線を寄せていることも知っていた。
羨望、欲望、嫉妬。
いろんな感情が心路に向けられていることを。
それでも、ふたりはふたりの世界にこもっていた。
教室に入り込んでくる春の優しい風が、心路の黒髪をふわりと揺らす。
「古道、次保健だって、心路あんまり得意じゃないから、やだなあ」
そう言って笑う心路は、どんな綺麗なものを並べてもかなわないくらい、綺麗だ。
チャイムの音がなって、またあとでね、と隣の心路が前を向いた。
「だから、自分の身体を大切にしないといけないし、相手の身体も大切にしなければいけない。初めても、心に決めた人とすること」
心路はいつも剽軽な保健の先生が、いつもよりずっと真面目で大人な顔でそう話すのを聞いて、そっかと納得した。
授業で聞いた内容は、古道としたこともあったし、もういない、父親と呼んでいた人に強要されたこともあった。
だから心路はまだ綺麗なままだった。
身体をつなげたことなんてない、綺麗なままだった。
ちらりと古道の方を向けば、古道が同じように向いてくれた。
笑いかけてくれる古道に微笑む。
「ね、古道」
内緒話をするように手のひらで口を隠して、話しかける。
なに、と目を細めてくれた古道に笑った。
「心路のはじめて、古道がもらってくれる?」
小さな声で囁けば、目を見開いた古道がすぐに笑ってくれた。
「心路の初めてを俺がもらえるの?」
「ん、もらってほしい」
「俺、もう死んでもいいよ、心路の始めてもらえるなら」
「死んじゃダメだよ、心路をおいてかないで」
そう言って笑ってみせれば、古道も同じように笑ってくれる。
目を細めて、嬉しそうに、とろけた表情を見せてくれた。
「じゃあ、大事にしなきゃね。18歳になったらもらおうかな」
「どうして、18歳? まだまだ、遠いね」
「高校卒業して、心路とちゃんと一緒に生活していけるようになったら、その時にもらいたい」
「…それ、いいね」
チャイムがなる音が聞こえて来て、ふたりは内緒話を終えた。
教科書を片付けて、古道とまた違う話をはじめる。
心路の中で古道と交わした約束は、とても大切なものになった。
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