幸せ
「古道、おはよ」
「…おはよう、心路」
古道に名前を呼ばれて、心路はふにゃりと表情筋が緩むのを感じた。
優しく抱き寄せられた腕の中で、ぽかぽかと胸が温まる。
昨日、ふたりしてわんわんと泣いて眠ったせいか、とても頭がもわもわと少しだけ痛かった。
それでも古道の腕の中なら、その痛みも心地よい。
「…懐かしい夢、見てた。最近よく懐かしい夢見るんだよね」
「…どんなゆめ?」
「父さんに引き取られた時の夢」
「じゃあ、幸せな夢だね」
「そうだね」
そう言って古道が笑うのを、胸元で聞いた。
幸せだな、ぎゅうと胸が締め付けられて、心路も古道の背中に腕を回す。
黒髪を鼻先でかき分け、口付けをくれた古道に、心路はギュッと抱きついた。
「今日、サボっちゃう?」
「ん。ゆっくりしてたい」
魅力的なお誘いに、心路は頷いた。
ベッドで昼過ぎまでゴロゴロしてから、起きて共有ルームのソファーに移動した。
古道の入れてくれたココアを飲んで、ぼんやりとテレビを眺める。
隣で同じようにテレビを見ている古道を時々盗み見た。
「なあに、心路」
「んーん」
「可愛いね」
そう言って笑ってくれる古道が嬉しくて、心路は鼻をすんっとすすった。
幸せすぎると、涙が出てくる。
ぽろぽろと涙を流す心路に、古道が笑った。
「こど、こころ、まえみたいに笑えてる?」
「…うん、上手だよ」
大きな手のひらが頬を挟む。
額を当てて、笑いあう。
古道の優しい笑い声に心路も釣られて笑った。
唇を重ねて、手を握り合って、鼻先をすり合わせる。
「好きだよ、心路」
「ん、ここも」
古道に手を引かれ、古道のうつ伏せになる。
ソファーの上でキスをしながら、古道の着ていたパーカーを脱がした。
顕になった古道の左胸にキスをして、赤い痕を付ける。
脳みそが痺れるように快感が湧き上がってきて、心路は息を漏らした。
「ん、…は、あ…」
「おいで」
ぐいっと脇を持ち上げられて、古道を見下ろす。
古道の唇を舌先でくすぐった。
うっすらとひらいた下唇を甘噛みして、何度も吐息をこぼす。
大きな手のひらが心路の着ている古道の大きい白いYシャツの下から入り込んできた。
背骨をなぞって、上まで到達したら肩甲骨のくぼみをくすぐる。
もう片方の手が腰骨をなでて、下着を脱がそうとしているのを感じて、心路は腰を浮かして手伝った。
「あっ…、あ…」
「心路、綺麗だね」
そう言って笑った古道はまぶしそうに目を細めていた。
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