スキップをご一緒に
「転入生? こんな時期外れに?」

「時期外れだよな、本当」

「しかも2年だって。まさかSクラスじゃないよねぇ」

変なの、と楽しげな声が飛び交う。
柔らかな日差しに、穏やかな小鳥の声。
飛び交う噂。

ココは辺りから聞こえてくる言葉たちに口角を上げた。
鮮やかな景色が目の前に広がり、両脇に流した前髪が風に揺れる。
ふわふわと揺れる髪に思わず歌ってしまいそうだ。


「ふふ、あはは」

足取りが軽やかになり、ココはスキップをする。
あたりなんて気にする必要もない。
幸せが訪れる、そんな予感がする。


「あはは!」

小さな笑い声が通り過ぎる生徒たちの耳をくすぐった。


「えっ、…今、犬山君笑ってなかった」

「は? まさか。犬山が笑うわけ無いでしょ」

「いや、笑い声も上げてたような…」

「気のせい気のせい。あの綺麗な綺麗なお人形さんが笑うわけないでしょ」

通り過ぎたクラスメイトが振り返って首を傾げる。
スキップをしていた後ろ姿は、もう曲がり角を曲がってしまったのかどこにもなかった。

ココの向かう先は風紀委員会の為に作られた風紀室。
鼻歌でも歌ってしまいそうだ。
エレベーターに乗り込み、息を整える。
ふふ、と小さく笑い、指先で4階のボタンを押した。
ポーンと軽快な音を奏でる。

トン、とエレベーターから降りて、風紀室へ。
大きな長い窓からきらきらと入る日差しは、まるでココの喜びを照らしているようだ。

スキップは止まらない。
風紀室の扉を開き、中にいるメンバーを見る。
中央の大きな椅子に腰を掛けている男を見て、ココは微笑んだ。


「心路、どうしたの」

ふるふると首を振って、中に入る。
ココは男の肩に手をかけて耳元で囁いた。
その囁きに、男も笑みを浮かべる。


「ああ、ようやくだね。心路」

「聖委員長。生徒会が会議を開きたいそうですよ」

「わかったよ。心路、古道は仮眠室で休んでいるよ」

立ち上がった風紀委員長である桜庭聖(さくらばひじり)は、隣に立っていた副委員長の星野聖(ほしのせい)を見る。
それからココの頭を撫でてから、またね、と囁いて風紀室を出ていく。
彼らを見送ってから、ココは仮眠室の扉を開いた。


ベッドの上で寝転がっている古道は、鼻歌を歌いながら目を瞑っている。
昼寝をする気もないのか、ただ寝転がっているようだ。
ココはダブルベッドに駆け寄り、古道の隣にぽすんと横になった。


「ココ、父さんは?」

「お仕事だって。古道も連れてきてほしかったって、お父様言ってたよ」

「んー、じゃあまた今度一緒にお出かけ行こうかな。ココちゃん、なんか嬉しそうだね」

古道の金髪に触れ、ココは笑う。
それから古道の右耳のピアスに触れた。
ペタペタと触れてくるココの手に、古道は軽く笑い同じようにココの頬を撫でる。
古道の太く長い指先はココの唇を撫でて、中に入り込む。
赤くぽってりとした唇の中は熱く湿っていた。
伸びた指先はココの舌先を突き、丸いピアスをくりくりと弄る。


「んっ…、んンっ…ぷはっ、お口で、しよっか…?」

「今はいいよ、ココちゃん」

チュッと唇を軽く触れ合せた。
爪先を触れ合せ、足を絡ませ、身体を引き寄せあう。
ココの熱い体温と、古道の低い体温が混ざり合った。


「…来たって、彼が」

ココの言葉に古道は口角を上げた。
それからココを強く抱きしめる。
小さな体が軋むくらい、強く。


「ココ」

「うん」

「ココちゃん、これで…。よかったね」

こくりと頷いたココの表情はとろけるようで、古道も微笑んだ。
ココの長い前髪を耳にかけ、あらわになった白い頬に口付ける。
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