全校集会
文化祭が終わってから一週間。
副会長が生徒会室に戻ってきたと、ココと古道は人づてに聞いた。
生徒会の仕事も滞りなく進み、風紀委員会の仕事も楽になっている。
何事もなく、花咲桜なんて最初から存在していなかったみたいな静けさに、ふたりは穏やかな気持ちで日々を過ごしていた。
それでも、彼はいなくなっていないし、残された傷は醜く歪んでいるようだった。

そんな中、丸々一週間経った今日、臨時の全校集会が開催される。
風紀委員は壁際に数カ所に別れ座っていた。
古道とココも同様で、ふたりは入口のそばに座っている。

「ココちゃん寒くない?」

こくりと頷いているココの唇は少し青い。
古道は自分のブレザーをココの膝にかけて、そっと引き寄せた。
近づいた距離に温かさを感じて、ホッとする。

「お静かに。これから臨時の全校集会を始めます。今回の集会の説明を、桜庭風紀委員長お願いします」

ザワザワとしていた講堂が静まり返る。
今日は風紀委員が集会を呼びかけたから、風紀委員長の聖と副委員長のセイが司会を行う。
セイの声はよく通り、その場を静まり返らせるのにちょうどいい。
静かになった講堂の壇上に聖が歩いていく。
こういう時の聖は、とても厳格な雰囲気を纏い出てくる。
古道とココは顔を見合わせて小さく笑った。

「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。今回の全校集会では、生徒会役員のリコールを行いたいと思います」

聖の低い声がそう告げると、内容にざわめいた生徒たちが、次々と口を開き始めた。
壁際に立っていた風紀委員が静かにするように立ち上がるか、視線を交わす。

「お静かに」

ざわざわとしていた講堂がもう一度静まり返った中、聖が用意されたプロジェクターを使用する。
リコールする内容が書かれたそれを、生徒たちはじっと見つめていた。
淡々と読み上げていく聖に、生徒たちは口を開かなかった。
こういう時に大声を上げそうな花咲はいないのか、講堂は静まり返ったままだ。

「署名に賛同した生徒は三分の二以上、各委員会の委員長からの署名も全て揃っています。何か質問のある生徒はいますか」

誰も手を上げる生徒はいない。
三分の二以上の生徒は同意したのだ。
この生徒会の収束を。

「いないようですね。それでは、生徒会役員の皆さん登壇してください。これから、リコールについての挨拶をしていただきます」

六つ並べられた椅子に生徒会役員が座っていく。
リコールなど、滅多に起きない。
それでも式の流れはあって、これから彼らは弁明をしなければいけない。



「副会長、市井二さんお願いします」

「はい」

透き通った声が響いて、静まり返った講堂の空気が冷たくなった。
自分を慕っていた人々は、身勝手な行動でとても傷ついた。
許してくれる人なんていないのだろう。
二はぐっと息を呑む。
自分が招いた事態だ。

「副会長の、市井二です。…弁明など、ありません。私が行ってきた事をみなさんはご存知ですね。私の身勝手な行動で、たくさんの方を傷つけてきました。副会長としての立場と自覚が欠如していたため招いてしまったことを、許して欲しいとは言いません。大変、申し訳ございませんでした」

謝罪で頭を下げるのは初めてだった。
ずっといい子でいるように心がけてきたから。
あの日、文化祭で犬山心路に心がダメになるような、ぐちゃぐちゃでまっすぐな正論をぶつけられてから、どう生きていけばいいのかわからなくなった。
それでも、二はやらなければいけないことがたくさんあった。
副会長だから、けじめをつけなければいけない。

「大変申し訳ございませんでしたッ」

マイクを外し、声を張り上げ、深く、深く、二は頭を下げた。

今回リコールされる他の三人も同じような内容をそれぞれの言葉で話した。
静まり返った講堂に、四人は自分たちがしてしまった事の重大さに深く溺れそうな気持ちになった。



「それでは最後に生徒会長、お願いします」

ココと古道は入口でそれをぼんやりと眺めていた。
壇上に立った会長はしっかりと立っている。
前をまっすぐに向いて、凛とした姿で。

「生徒会長、九津帝都。このような事態になり、生徒の皆さん、先生方、大変ご迷惑をおかけしました。この事態を収束すること、また、今まで以上に学園をよくすることを条件に、生徒会長を続けさせていただきます。今回の件で、私たちはたくさんの方を傷つけてしまいました。ひとつの謝罪では、…私たちの謝罪だけでは何も解決しません。…私たち生徒会は、皆さんの信頼をいち早く取り戻せるよう、身を削り、全力を尽くして行きます。短い言葉になりますが、ここで締めさせていただきます」

会長の真っ直ぐな言葉に生徒たちが拍手をしたけれど、古道とココは拍手なんてしなかった。
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