後夜祭
講堂でたくさんの生徒が集まり、立食パーティーという形で後夜祭を行う。
古道とココは見回りに回っていた。
制服に着替えたふたりは、いつもと同じようにタブレットを持ちながら歩いている。
ココは風邪をひかないようにしっかりとコートとマフラーをつけてあったかい格好をしていた。
つないだ手をぶらぶらと振りながら、歩く。
「静かだね」
「うん」
「今日楽しかった? ココちゃん」
「うん、写真、嬉しかった。お揃いの衣装も」
「そっか、ココちゃんが楽しかったなら、俺もとても嬉しいよ」
古道の優しい声がそう言ってくれて、ココは口元が緩んだ。
古道はいつも優しい。
最近は、とびっきり優しくて、ココはいつも胸が締め付けられていた。
今だって、大好きだって苦しくて仕方なくなる。
そう思いながらココは古道の手を強く握った。
「つき、綺麗だね」
「このまま時が止まってしまえばいいのにね」
ふたりで空を見上げてみれば、まん丸の月が浮かんでいた。
ココのカバンの中には、文化祭でとった写真がしっかりと入ってる。
古道の手は今日も冷たかった。
「副会長さんに、ひどいこと言っちゃった」
「そうだねえ」
「しんじゃえって」
「ずっとぐるぐるしてたんでしょう?」
「…うん」
「あとで謝りに行こう」
「ん」
謝りに行こうと言ってくれた古道の言葉はとっても優しくて、ココはなんだかひどく悲しくなった。
どうして、古道だけでいられないなのだろう。
ほかの人のことを考えてぐるぐる、ぐるぐる回ってしまう思考が嫌で嫌で仕方なかった。
それでも、謝りに行こう、その言葉にほっとしたのも、紛れもない真実だ。
「ココちゃんはさ、優しいんだよ。とっても、悲しいくらい」
古道の言葉に、返事はできなかった。
ココは優しくないよって、言いたかったけど言葉に出来る気がしなかった。
そのままぎゅっとつないだ手をぶらぶらと揺らして、もう一度月を見上げた。
「…月、やっぱり綺麗だね」
「うん、死んでもいいくらいね」
どこかの文豪の訳したセリフみたいなことを返してくれる古道にココは小さく笑った。
風紀委員室に戻って、ふりかえりを行う。
古道とココもコートをかけて、定位置に腰を下ろした。
全員楽しそうで、それでいて疲れた表情をしている。
「今回は、制裁未遂が一件、暴力未遂が一件で、去年が何もなかったから目立つね。それでも未遂で済んだのは、君たちのおかげだよ」
聖の言葉に、風紀委員たちが目を輝かせた。
みんな、文化祭も楽しめたようだ。
「制裁未遂をおこした生徒は、今回が初犯じゃなかったため、理事会に掛け合ったところ、停学10日の処分になった。それから、花咲君と生徒会の揉め事は副会長と一緒に制裁をうけそうになっていたところ、副会長に逃がしてもらった花咲君が風紀員を探している最中に起きた」
「風紀委員探してて全く関係のない話してたみたいですよね。友達が危ないっていうのに、自分のことしか考えてないってすごいですよ」
黒瀬の言葉に、ほかの生徒も同意するように頷いていた。
ココはそんな話をぼんやりと聞いている。
改めて話を聞くとひどい話だ。
「それから。花咲君が心路の名前を上げていたようだから、心路は今後必ず誰かと一緒に行動してね。今までどおり古道とふたりで一緒にいて、学校では僕とセイがなるべく一緒につく。それ以外で何かあるときはほかのみんなにも頼むから、よろしくね」
「当たり前ですよ」
ぼんやりと聞いていたココは自分の名前が上がったことにまゆを寄せた。
隣の古道も同じように眉間にしわを寄せている。
ぎゅっと手を握られて、ココはほっとした。
「じゃあ、あとは特に変わりはないから、解散しようか。ゆっくり休むこと」
そう伝えられて、解散する。
風紀委員達が帰って行くのを眺めながら、四人は部屋に残った。
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