捕獲
階段のそばで生徒会役員と花咲が言い合っているのを聖と黒瀬は見ていた。
止めに入る間合いを確認しながら、黒瀬に生徒会を誘導するように伝える。
花咲の声は大きくて全て丸聞こえだ。
ココの名前が上がったところで、黒瀬と顔を見合わせた。
「犬山先輩、あいつと関わったことありましたっけ」
「…いや、古道が絡まれたことはあったけど、心路は避けていたからあまり」
「それどころじゃないみたいですね、行きましょう」
「そうだね」
黒瀬が先に声を上げて歩いていく。
その後ろを歩きながら、聖はああ、もしかしてと、ひとつの仮想が頭のなかに浮かんだ。
「そこまで。風紀委員会です」
「はい、皆さん、少しどいてね。生徒会さん、花咲君、そこで止まるように」
張り詰めたような厳しい声と朗らかな声が廊下に響く。
一斉に静まり返って、ゆったりと歩いてくる聖と黒瀬に視線が集中した。
生徒会の三人と花咲は呆気にとられたように、そちらへ振り向く。
「…あ、あんた誰っ」
「風紀委員会です。文化祭中の揉め事は厳重処罰になるとアナウンスされましたよね? 聞きませんでした? それと生徒会の皆さん。まだ自覚がないのですか? ご自身の立場をわきまえるべきだと」
「黒瀬君、いきなり話すと驚いてしまうよ」
「すみません、委員長」
「さ、風紀委員会、特別対策室で話し合おうね」
そう話した聖の声が冷たくて、生徒会役員は静かに頷いた。
黒瀬が先に生徒会役員を誘導し、聖は笑顔を浮かべて花咲を見つめる。
花咲はな、なんだよ、と一歩後ずさった。
「君が心路の天敵、ね。あの子にはもったいないな。こんな中身空っぽなのは」
「っ、うっ、うるさい!!」
花咲が手を振り上げるのを見て、聖は笑顔を浮かべたまま向かってくる腕をさっと居なして、腕を背中に回すようにひねり上げた。
痛みに桜が悲鳴を上げるのを聞いて、聖は笑い声を上げた。
「はい、花咲君も一緒に行こうね。…さ、皆さん続きを楽しんで」
周りにそう声をかけてから花咲を押しながら、風紀員会の待機室の隣に設置した取り調べ室へ向かった。
初めて自ら関わってみたが、聖は目の前の生き物本当に同年代なのか疑ってしまった。
自分よりうんと幼く見える心路よりもずっと幼い。
そしてめいわくを顧みないあたり、好きになれないな。
そう感じた。
わあわあ喚く言葉は何を言っているのか理解できないから頭に入れない。
聖は返事をしないまま、花咲の背中を押し進む。
取締室として使用している空き教室を開けて、椅子に座るように勧めた。
「生徒会役員には別の風紀委員が話を聞いているから、公平性は保てています。ここで話していただいた内容は、処罰以外には他言しないので安心してください」
風紀委員の文言を言いながら、様子を見る。
目の前の花咲は座ったがいいが、すぐに立ち上がり動き回りそうな気がした。
仕方ない、そう呟いて、制圧組の生徒を呼ぶ。
中に入ってきた生徒がそばに立つのを確認してから、聖はパソコンを開いた。
「さて、君の弁明を聞こうか」
聖の笑った顔に、花咲の表情を引きつった。
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