拒絶
桜は走っていた。
二と一緒に四階の部活動の模擬店を見て遊んでいたら、いきなり三人組の生徒に腕を引っ張られ五階に連れて行かれたのだ。
それから乱暴されて、二が三人組の気を引いて逃がしてくれた。
だから、桜は助けを呼びに行かないといけない。
「さ、桜っ、風紀委員を呼んできてくださいっ」
桜に向かって叫んだ二は、顔が真っ青だった。
助けを呼ばないと、そう思いながら必死に走って二階まで降りた。
二階に行ったのは一番知っている階だったし、風紀委員もそこにいると思ったから。
一生懸命走っていると、いろんな人にぶつかったけれど、桜は気にしなかった。
だって二を助けないといけないから。
「ふ、ふうきいいんっどこにいるんだっ」
一生懸命走っていると、見知った顔が見えてきた。
大好きな生徒会のみんなだ。
「翔太!」
一番近くにいた翔太に声をかける。
振り返った翔太は桜の見たことのない表情をしていた。
それは、桜にとっては悪意を感じる表情だった。
「っなんでそんな顔するんだよ! 最近俺のところ来なかったのはなんでっ」
「…花咲先輩、なんの用ですか」
それは明らかな拒絶だった。
息が詰まった。
桜はこんな表情を向けられたことがない。
ふつふつと怒りが湧き上がってきて、桜は手を振り上げた。
「友達にそんなこと言うな! 静、そうだよねっ」
そう言って、静の方へ視線を向けた。
そこにいたのは、翔太と同じような表情をしている静がいた。
灯は?
そう思って、灯の方へ表情を向ければ、桜にはよくわからない表情をしていた。
どうして?
頭の中で疑問がぐるぐると回っていく。
「み、みんなおれのこと好きだって、友達だっていったじゃんっ」
「…ごめんなさい、花咲先輩、俺好きな人できたんです」
「お、おれも」
「…俺は、桜のこと、好きなのかなって思ってたけれど、違うって気づいた。…光にも悪いことしたし、ごめんね。仲良くしたいけれど先輩後輩だし、それに俺たちは生徒会だから」
何を言っているのかわからない。
好きな人が出来たって、俺のことでしょ?
なんでみんなそんな顔してるの?
あたまがぐるぐる回って、桜は声を上げた。
「すきなひとって誰だよ! 親衛隊ッ? どうせセフレでしょ!! そんなのダメだって、何回も言ったじゃんっ。なんで分かってくれないのっ、俺が一番っ、みんなのことわかってあげるのにっ、俺が教えてあげたのにっ」
あたりがざわざわしてる。
見られてる。
それでも桜は止まらなかった。
なんで俺を見てくれないの。
みんな俺のことが一番大好きでしょ。
なんでなんでなんでなんでなんで。
「花咲先輩が、間違ってるって犬山先輩が教えてくれたんだよ」
ぼそりと冷たい表情で翔太が呟いたのを、桜は聞き逃さなかった。
静や灯が驚いた顔をして翔太に視線をずらしたことも、桜は見逃さなかった。
犬山、犬山。
大神のそばにいつもいる、桜が一番嫌いな人。
桜が大神と仲良くなりたいのに邪魔をする人。
「…っ、犬山って人がみんなに嘘を吹き込んだのっ?」
はっとしたような三人の表情に、桜はやっと理解した。
桜が攻めるべきなのはこの三人じゃない。
桜の大好きな人達に嘘を吹き込む、犬山だ。
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