大切
「ふたりとも、もう少し近寄ってねー」

カメラの前で、ふたりは寄り添った。
ココがそわそわしてるのがわかって、古道は小さく笑う。
腰に手を回し引き寄せて、前を向く。

「いいね、ふたりとも様になってる」

そう言って笑った写真を撮ってくれる生徒にココが笑った。

最近は色々な表情が戻ってきたような気がする。
古道はそう思いながら、となりのココをもう一度引き寄せた。

「じゃあ撮るね。ライトのあたりを見てー」

「はーい」

シャッターを切る音が数回聞こえて、生徒がカメラを確認する。
もう一枚撮らせてね、と声をかけられて、次はポーズを指定されてココをお姫様抱っこするように伝えられた。

「そういい感じ」

いつもとは違うお姫様抱っこに、ココがふわりと笑った。
シャッター音が数回聞こえて、オッケーと声がかかる。
ココの柔らかな髪に鼻先を寄せて、キスをしてから、下ろす。

「じゃあいま印刷するから、そっちのテーブルで待っててね」

テーブルにつけば、紅茶が目の前に出された。
カフェスペースもこの写真館の売りのひとつみたいだ。
目の前の紅茶はとてもいい茶葉を使っているのか美味しい。

「ココちゃん、この紅茶美味しいよ」

そう声をかければ、ココがカップに手を伸ばした。
温かい紅茶はいい香りがして、そっと口に含む。

「あ、おいしい…」

おもわずこぼれた声に古道が静かに笑う。

「ココちゃん、楽しい?」

「うんっ」

頷いたココが笑っている。
古道もつられて微笑む。

紅茶を飲み終わる頃、印刷していた生徒から写真を受け取った。
綺麗な赤い封筒に封蝋してあり、凝ってるな、とふたりで微笑む。
紅茶を飲み干してから、出口へ向かう。
矢掛に声をかければ微笑んでくれた。

「犬山君、大神君、遊びに来てくれてありがとう」

「せんぱい、いつでも風紀に来てね」

ココがそういうのを聞いて、古道も笑みを浮かべた。
矢掛が嬉しそうに笑って、手を振ってくれる。

「ありがとう」

ふたりも手を振って、3Sを出た。
ココが大事そうに赤い封筒を抱きしめるのを見て、古道はくすぐったい気持ちになる。

「うれしい?」

こくりと頷いたココに、古道は大きな手で柔らかな髪をなでた。

「古道、待機室戻って、しゃしんみたい」

「そうだね、向こうで弁当でも食べるか」

「ん」


待機室に戻ると、セイと白井がいた。
ふたりも昼休憩を取りに来たのか、テーブルでクラスの模擬店で買ってきた焼きそばなどを広げて食べていた。

「おかえりなさい、何か食べてきた?」

「いや、弁当食べに戻ってきた」

「わざわざ作ってきたんですか?」

白井にそう問われ、古道は笑った。
ココがぎゅっと古道とつないだ手に力を入れる。

「ココちゃんが俺の弁当食べたいって言ってくれたら作るしかないでしょ」

そう言ってわしゃわしゃと髪をなでて、古道が笑う。
ココはそれに安心して、ぎゅっと古道に抱きついた。

「犬山先輩甘えん坊で可愛いですね」

白井が笑うのを聞いて、ココはふるふると首を振った。

「来賓の方も帰られたのを確認したから、待機室暇になるんですよね」

「滅多に揉め事も起きないから、楽よね。まあ、お昼頃に聖が駆り出されてたけど」

「桜庭先輩、にっこにこでちょっと怖かったなー」

「飼い主様まだ戻ってないの?」

「あら、さっきちらっと戻ってから遊びに行ってくるって言ってたわよ。例の彼も監視で先生についてもらっているし」

3人が話すのを聞きながら、ココは古道が作ってくれたお弁当を開く。
古道のより小さいそれに、頬が緩む。
お弁当の中身は、古道の好みで出来ていた。
それでも、ココも古道と同じものが好きだから、嬉しかった。

「ココちゃん、全部食べれそう?」

大きくこくこくと頷いてから、いただきますと手を合わせた。

お弁当を食べ上げてから、セイが入れてくれた緑茶を飲む。
ココは大事にポシェットにしまっておいた赤い封筒を取り出して、写真を見る。
写真の中の古道とココはとても嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「後でお部屋に飾ろうね」

そう言って笑ってくれた古道に、ゆっくりと頷いた。

落ちていくそれに end
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