リコール
「お前たちに話しておきたいことがある」
生徒会室に集まった副会長以外の役員に、帝都はそう告げた。
珍しい話の切り出し方に、光が眉を寄せたのを見て苦笑する。
それが普通の反応だ、そう思いながら帝都は聖からもらった書類を全員に配った。
「…リ、リコール?」
会計の村松の戸惑う声が聞こえてきた。
書記の川口も戸惑ったように視線を揺らす。
光の双子の片割れの灯は覚悟をしていたのか、強ばった表情のまましっかりと書類を眺めていた。
「な、なんで? 俺ら、もどってきたじゃん、それに今更」
「仕事、してるのに、」
理解ができないというように話すふたりに、帝都はため息をついた。
聖の考えは書類に明記されている。
それから、この用紙を役員より先に配られていた生徒たちは、聖の意見に賛同して署名をしているのだ。
「会長と、光先輩だけなんでそのままなの」
「俺と光は、お前らを止められなかったとしてリコールを甘んじるつもりだった。しかし桜庭聖…いや、全校生徒はそれを許さなかったんだよ」
「…署名は集まっているの」
「ああ、もういつでもリコールできる状態だ」
「そっか」
自分たちに非があったことは本人たちも理解しているのか、強く言えないようだ。
強ばったままの灯に視線を向ければ、慌てたようにそらされる。
「お前たちも、賢いからわかるはずだ。自分たちがしてきたことを。上に立つことになる人間が、悪いことをしたのに裁かれないのはおかしいだろ。…そういうことだよ」
「…副会長は知ってるの?」
黙っていた灯が小さな声で呟いた。
帝都は静かに首を振って苦笑する。
それにつられたように光も訝しげに尋ねてくる。
「副会長、生徒会をリコールしようと署名集めてるって聞いたけど、それはどうなんだ」
「リコールについて話があるから、と声をかけたが、来なかった。副会長が行おうとしているリコールについては…。生徒たちは俺たちの実態を誰よりもわかっている。あいつが花咲を会長にしようとやけを起こしているがそれに頷く生徒などだれもいないだろ」
そう話せば納得したのか、光はソファーの背もたれに身体をゆっくりと預けた。
自分の席に座っている灯は光から目をそらして辛そうな表情を見せる。
「弁明の余地はもうできない状況なんだ。生徒たちから見れば、何の謝罪も、言い訳もなく何事もなく仕事を始めたお前たちも許せない、それが今の現状ってこと」
「…そうだね」
納得したのか村松と川口は困ったように笑った。
灯も同じように小さくため息をついて、今までごめんと謝る。
「まあ後夜祭が終わるまでは馬車馬のように働かされる。悩んだりしてる暇はない」
そう告げれば、少しだけ生徒会のメンバーの顔が晴れたような気がした。
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