白雪姫?
文化祭まであと3日。
どこのクラスも、どこの委員会も準備はだいたい終わっていた。
それは風紀委員会も同じで、今日は仮装のための衣装の合わせの日だ。

「わくわくするね」

古道にしか聞こえない声で呟いたココに笑いかける。
わくわくするのは古道も同じだ。
聖やセイはどうだろうと視線をずらせば、同じように笑みを浮かべていた。

「白井、黒瀬よろしくね」

そう言った聖の言葉に、白井がお待ちしてましたっまずは犬山先輩と嬉しそうに声を上げて、衝立を少しずらした。
役員の衣装はしっかりとマネキンに着せられていて、ほかの役員の分はハンガーラックにずらりとかかっているようだ。
真ん中にココ用と思われる小さなマネキンがある。
頭には真っ赤なリボン、動きやすそうな黒いドレスは、有名なアニメーションの白雪姫のドレスのシルエットをしていた。
胸元は黒、ふわりと丸みを帯びた長袖は純白で、ココの細い腰でも入らないんじゃないかって思うくらい引き締められたウエストから下も純白だ。
頭のリボンだけ真っ赤で、際立っていた。
中には純白のパニエが入っている。
隣のココを見れば、ぽかんとして、ぽつりと「おもいっきりじょそう」とつぶやく声が聞こえてきた。
おそらく、ココはニュアンス的に白雪姫で、思いっきりドレスをきせられるなんて思っていなかったのだろう。

「…すっげえ…」

ぽつりと呟いた黒瀬に白井が親指を立てて満面の笑みを浮かべた。
次に古道の衣装の番だ。
白タイツはやめろと伝えていたが、どんな衣装か想像するとゾッとした。
衝立が動かされて、今度は古道が「よかった」と呟いた。

「古道のやつも某アニメの衣装を元に作られているね」

白いビックシルエットのYシャツをもとに、黒い布、黒いスラックスにグレーの長いブーツ。
腰元には短剣が刺されている。
フード付きのマントは真っ黒だ。

「モノトーンで攻めてきたね」

「モノトーンにしたからこそ、王道的な白雪姫じゃないとわからないかなって思いまして」

聖と白井の会話に、古道とココは苦笑した。
王道的な白雪姫はふたりも見たことがある。

「ダーク過ぎない?」

「いや、案外白い布も多いから、その点は補填出来ると思います」

「ま、ぶっちゃけハロウィン意識してなくもないよな」

「そう、それ」

今度は黒瀬が口を挟んできて、賑やかそうでなにより、とココは諦めた。

聖とセイ、白井と黒瀬の衣装も似たような雰囲気の色合いだった。
着てみないとどうかわからないと、目をランランと輝かせたセイに促され、古道とココは仮眠室に衣装を持って入る。
最初に古道が着替えて見せれば、ココがうっとりと目を細めた。

「わお、古道、かっこいい」

「そうかぁ?」

「かっこいいよ、ココの王子様」

そう言ってぎゅっと抱きつけば、古道がまんざらでもなさそうに笑った。
ココちゃんも早く着替えて、と、額にキスされて、ブレザーを脱ぐ。

「あ、犬山先輩、しっかり、苦しくない程度にコルセット締めてくださいね」

扉の外から大きな声で聞こえて、ココは小さくわお、ともう一度呟いた。
白井から受け取った衣装の中には下着まで入っている。

「女物じゃん」

「…白井君はココのこと、な、なんだと、思ってるの…」

「しかもちょうどよさそう」

ベッドに座ったココはそっと腰を浮かし古道に下着を履かせてもらう。
サイズもぴったりで、女の子のようになった気分になった。
次にコルセットを腰に当て、ぎゅっと締めてもらう。

「ん、うっ、んんっ」

「苦しい?」

「んん、だ、いじょ、ぶ」

「うわ…やらし」

古道のつぶやきに頬がさっと赤みを帯びたような気がした。
はやく、と促して止めてもらえば、おもったよりも楽なことに気づく。
うすっぺらな胸が少し切ないような気がするが、ドレスを着込めばぴったりで違和感はなくなった。

「…可愛い」

真面目なトーンで囁かれて、ココは小さく笑った。

「こっちは準備できたよー」

もう一度仮眠室の外から声をかけられて、ふたりは手をつないで外に出た。
そこには着替え終わった大勢の小人と、白黒で統一された継母と王様と鏡と狩人がいる。
圧倒されるそれに古道は思わず笑った。

「モノクロ映画みたいだ」

こくりと頷いたココが、姿見で自分の姿を見ていた。
女の子にしか見えない。

「い、犬山先輩…す、ご…」

言葉にならない白井の声が聞こえて来て、聖が朗らかに笑った。

「陶器みたいな白い肌っ、真っ赤な唇っ、漆黒の髪に赤いリボンっ…我ながらグッジョブ。直すところなしっ。足元は寒そうだから当日はストッキングを履いてもらって、真っ赤なパンプスでよし、長袖にして正解。これは…大神先輩、当日は犬山先輩をしっかり守ってくださいねっ、いやもはや護衛になんにんかつけたほ」

「白井君ストップ」

ごつんと白井の頭に聖の拳が入った。
急停止した白井にまわりがざわざわして、着替えようか、と声が上がる。
ココはそれが面白くて、古道も同じかな、と見上げた。
古道はココをじっと見ている。
どうしたの、と袖を引けば、古道が笑いかけてくれた。

「ココちゃん、ほんとに可愛い」

その笑みがとても綺麗で、ココは目を細めた。
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