生徒会長と風紀委員長
火曜日の放課後。
生徒会の文化祭の大まかな準備や仕事は終わったため、生徒会長の九津帝都はほかの役員を帰していた。
ひとりきりになった生徒会室で、ぼんやりと窓の外を眺める。
秋にしてはいい天気で、まだこんなに明るいのかと考えていた。
「…あっという間だな」
小さく呟いた所で誰かが返事をしてくれるはずもない。
役員が戻ってきたとしても、どこか違和感がぬぐいきれなくて、気を使っていたのか疲れている。
ぼんやりととりとめのないことを考えていると、重厚な扉をノックする音が聞こえてきた。
開いている、と返事をすれば、どこか食えない風紀委員長の桜庭聖が入ってきた。
「こんにちは、生徒会長の九津帝都くん」
「こんにちは、風紀委員長の桜庭聖。…なんの用だ、今日はもう仕事を切りやめてるぞ」
「期日が明後日までの書類を届けに来たのと、ちょっと会長様とお話がしたくてね」
にこりと笑った聖に帝都はろくでもないことが起こる予感がした。
座れ、と声をかける前にソファーに腰をかけた聖に苦笑して、帝都もソファーに移動する。
向かい合えばまずは書類を手渡されて、内容を確認した。
それからテーブルにそれを置けば、聖が足を組むのが見える。
「あ、お茶はいらないよ」
「淹れねえよ。お前わりと図々しいよな」
「ふふ、まあさくっと本題に入ろうか。会長様、疲れてるみたいだしね」
「…めんどくせえやつだな」
そう言いながら背もたれに身体を預ける。
聖から視線をそらし天井を見上げた。
「文化祭が終わったら、生徒会をリコールしようと思うんだけど、どうかな」
「…わざわざ俺にそれを言うか?」
「いやね、君がどんな反応するかなって思って」
「それに今更だろ」
自分の反応を見て、聖が笑う。
そんな様子にやるせなさを感じながら、帝都は身体を起こして聖としっかり向き合った。
「今までね、様子を見ていたんだよ。副会長はもう今の生徒会に戻るつもりもないようだし。君がほかの役員をどう処分して、ほかの役員はどう行動するのかを観察していたんだ」
「…そうかよ。で、おメガネに叶わなかったわけだ」
「物分りがいいねぇ。ただね、君と榎本光君をどう処分しようか考えいて、相談に来たんだ」
「相談?」
訝しげに眉を寄せて聖を見れば、すっと無表情になった。
その変わりように、帝都は最近自覚した恋しい相手を思い出す。
彼もこの風紀委員長と同じように、時折何も感じないかのような能面のような無表情になることがあった。
「君はどうかな、リコール」
「…今更足掻かねえよ、俺は。とうに覚悟はできているし、それにもともと出来の悪い次男坊が、やっぱり出来が悪かっただけで、家がどうこう言うわけじゃない」
「それは、やる気がなかったってことかな」
「やる気があるないとは少し違うな。やれと決められたらとことんやるつもりだし、やめろと言われたらそれに従うまでってことだ」
「君は白か黒かいつもはっきりしているね、君の美徳だ」
「…褒め言葉として受け取っておくわ。それにリコールを反対しない理由はたくさんある。…俺は生徒を不安な目に合わせた。多くの被害者が出ているのに、仕事にかまけて助けられなかった。…その処罰は、役員をまとめられなかった俺が受けるべきだと思っている」
帝都は自分が思ったよりも静かに、穏やかに話せていることに驚いた。
何も考えず出てきた言葉は思ったよりもすとんと胸に落ちる。
「いや、違うな。…ああ、俺は生徒会長という立場から、責任という形で逃げ出したかったのか」
呆けた声でそう呟けば、無表情だった聖がにこりと笑みを浮かべた。
「ふふ、自分で理解してくれたようでなにより。君の処分を決めたよ。榎本くんに関しても、彼も君と似たようなことを言いそうだね」
「ああ、光と俺はどこか似てるからな」
聖が満面の笑みを浮かべて、足を組み替えるのを見た。
まだここに居座る気か、と訝しむと、笑い声が聞こえてくる。
「僕がどうするのか聞きたい?」
「別に」
「君には生徒会長を続けてもらうよ。それから榎本君には、副会長になってもらおう。それが一番しっくりくるね」
「別に、って言っただろうが。俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ」
「僕は君のストレートなものいいが好きだけどね」
ふふ、と笑った聖に、降参というように手を挙げて見せた。
この風紀委員長はどうしようもないくらい、悪魔のように性格が悪いのだ。
「ちなみにどこまでリコールの準備が進んでいるかはね、各委員会の署名はもうもらったし、一般生徒の署名も3分の2まで集まってるところ」
「準備もなにも、もうリコールできます状態じゃねぇか。ほんっとクソ野郎だな」
「ほんとは3分の3とれたら良かったんだけどね。それに君はヘタレ野郎」
ああ言えばこう言うっていうのはこういうことだと、帝都は思わず苦笑いせざるを得なかった。
prev |
next
back