お父様と食事
見回りは何も事もなく、平和に終わった。
風紀室に戻れば聖がおかえりと微笑んでくれる。
ほかの風紀委員達は帰っていて、いつものメンバーだけ残っていた。

「お疲れ様」

ココはタブレットの入ったカバンをかけて、タブレットを充電器に差し込んでから聖のもとに駆け寄った。
ぽんぽんと頭を撫でられて、小さく笑う。

「もういい時間だから一度部屋に戻って着替えてからこようか」

聖にそう言われて小さく頷く。
古道も了解と答えて、通学用のココの鞄と自分のカバンを持った。
聖とセイに手を振りながら部屋を出て、古道と手をつないだ。

「夕方はだいぶ寒くなるね」

「うん」

「父さんに会えるの嬉しい?」

「うれしい。久々の家族水入らずってやつだね」

鼻歌でも歌いそうなココに、古道は笑った。
寮の部屋に戻りふたりはクローゼットの中からスーツを取り出す。
お互いにネクタイを選び合って結ぶ。
古道は藍色、ココは深緑色のスーツを身にまとって、鏡で身支度を整えた。
よし行こうか、と古道に声をかけられてココは頷く。
ぎゅっと手をつないで、校門まで歩いて行った。
助手席には聖が座っている。
聖はスリーピースのネイビーのスーツを着ていた。
父が運転席から降りてきて、駆け寄ってきたココをぎゅっと抱きしめる。

「私の可愛いオチビさん、おかえり」

「お父様っ、ただいまっ」

ぎゅっと抱きしめてくれた父はそのままぐるぐるとココを抱きかかえて回ってみせる。
そんな様子に窓を開けた聖が笑って、古道もつられて笑った。

「古道もおかえり。また身長が伸びたんじゃないか? どんどん男前になるなあ」

「3cm伸びた。多分俺、父さんのこともすぐに追い越すよ」

「よしよし、俺の可愛い息子さんたち、車に乗って、美味しいご飯にでも行こう」

「やったーっ」

ココがぎゅっと父に抱きついて笑う。
おろしてもらったココと一緒に車に乗りこんだ。


たどり着いた先は、桜庭家御用達のレストランだ。
ドレスコードは厳しくはないが、父が毎年買ってくれるオーダーメイドのスーツを見てもらうためにも全員でスーツを着てくる。
なんとなく、それが習慣になっていて、今日もスーツできたのだ。
個室に案内されて腰を下ろす。
古道もココも普段とは違い、洗練された仕草を振舞う。

「よしよし、マナーもバッチリだねえ。聖、よくこの子達を見ててくれてありがとう」

「いいえ、父さん。可愛い弟たちのためなら、僕はなんでもしますよ」

そう言って笑ってみせる聖はとても頼もしい。
ココは古道と顔を合わせ微笑む。
運ばれてきた料理に、古道はココを見た。
大丈夫、と口を動かしてココは細く白い指先で銀色に輝くフォークを持つ。

それから他愛もない会話を繰り返しながら、食事を終えた。
父は急な呼び出しがあったと、手を合わせて3人に謝る。
それから3人を送るための、リムジンを呼び出して先に帰っていった。
レストランで待たせてもらい、古道と聖はコーヒーを飲んでいる。

「心路、よく食べれたね。また古道とセイ以外の料理食べれるようになったの?」

「…んん、気持ち悪い。でも、お父様に心配かけたくないから」

顔色が真っ青になっていて、古道は苦笑いしながらココの背中をなでた。
元々小食なココのために少なめで用意してもらっていたけれど、それでも他人の作った料理が食べられないココにとっては量がとても多い。
胃の中がぐるぐると回っているような感じがしてきて、隣に座る古道の手をぎゅっと握った。

「ほら、胃薬と吐気止め」

聖に渡されたそれを飲んで、ココは天井を見上げた。
父と会えたことはとても嬉しかった。
たくさんのことを話せたし甘えられた。

迎のリムジンが来たことを告げられ、外に出る。
吐気はだいぶ治まっていて、外のさわやかな空気にぐるぐると回る胃の中も落ち着いたような気がした。
リムジンに乗り込んで、窓の外を眺める。

「心路、楽しかったね」

「うん、楽しかった。お父様のおはなし面白かった」

「そうだね、よしよし」

ココの笑顔がどこか懐かしいような笑顔で、聖と古道は微笑んだ。
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