解散
「副会長親衛隊の皆さん。急な招集なのに、全員集まってくださりありがとうございます」
神妙な面持ちでそう話す彼に、親衛隊、隊員達は一種の覚悟をしていた。
いや、全員に招集命令をかけられた段階で、覚悟を決めていた。
彼はおそらく直接彼から、別れを告げられたのだろう。
それは、一番最悪なパターンだけれども。
そんなふうに隊員達の複雑そうな表情を見つめていた副会長親衛隊隊長は、やるせない思いで苦笑いすることしかできなかった。
隣に立つ副隊長には既に事のすべてを伝えてある。
「…、先輩、だい…」
「ええ、もう大丈夫です」
「でも、」
「私は、親衛隊隊長です」
前を向いて、できるだけ凛とした表情に見えるように心がける。
大丈夫、私は私に出来る限りのことをする。
ここにいる全員が納得できなくてもいい。
それでも、彼らの悲しみや苦しみを出せるように、私を支えてくれた彼のように促したい。
親衛隊長はそう、覚悟を決めてここに立っている。
「…皆さん、薄々気付いている方もいると思います。とても許せないし、受け入れたくないと強く思うと思います」
親衛隊長は深く深呼吸した。
それから隊員の顔をひとりひとりしっかり見つめる。
隊員はそんな親衛隊長の顔を辛そうな顔をしていた。
「私たち副会長親衛隊は、解散するようにと、昨日副会長、市井二さんに宣言されました」
全員に聞こえるように、伝える。
一瞬シン…と静まり返った部屋は、すぐにざわざわし始める。
それから、泣き出す者、怒りをあらわにする者、様々な反応が返ってきた。
親衛隊長はぐっと拳を握りしめてまっすぐ前を見つめる。
「皆さんっ、静かにっ、お静かに」
副隊長の声に全員静かになる。
それを確認してから親衛隊長は、息を吸い込んだ。
「私たちは解散します。親衛隊に縛られず、自由に彼を思い行動することも可能になります。私は…、私個人としては、皆さんに品位を守っていただきたい」
ぐっと握り締めた拳。
それは振り上げられることもない。
副隊長が鼻をすする音が聞こえて、小さく微笑む。
「けれど、もう私は皆さんを縛ることはできない。…なので、どうか、自分を大切にしてください」
親衛隊長の言葉で室内はまた静まりかえった。
「辛かったら、悲しかったらいくらでも泣いていいんです。だから、抱え込まないで、いつでも私は待ってますから…。私からの話は以上です。皆さん、もう夜も遅い、気をつけて帰ること。ひとりで帰ってはいけませんよ」
親衛隊だった生徒たちが帰って行くのを眺めた。
親衛隊長はゆっくりと瞬きをする。
残ったのは、副隊長だった彼だけだ。
「隊長…」
「もう私は隊長ではありませんよ、海山君」
「矢掛先輩」
「あなたは私のことを慕ってくれた。とても優しい君が副隊長でいてくれて、私は嬉しかったよ。だから、どうか、彼に縛られず、自由に生きてね」
先輩の気持ちは、どうなるんですか。
副隊長の海山は、矢掛にそう聞くことはできなかった。
どこか吹っ切れているような矢掛が、羨ましいような気さえした。
「さあ、一緒に帰ろうか」
「は、はい」
矢掛に声をかけられて、頷いた。
教室を出れば、今までの自分とは違うような感じがした。
それは隣の矢掛も同じなのだろうか。
そう思って彼をを見れば、彼は小さく微笑んでくれた。
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