部屋
寮の部屋に戻り、ココをソファーに下ろす。
暖房をつけながら、コートを脱がし楽な格好にさせた。
寝室から着替えを持ったこようと背中を見せたら、小さな手に引き止められた。
「そばにいて」
か細い声は震えていて、古道はすぐにココの隣に座った。
ごめんね、と耳元で囁いて抱きしめる。
小さな身体は震えていて、かわいそうなくらいだ。
ソファーの背もたれに置かれたブランケットでココを包む。
暖房がようやく効いてきて、古道は腕の中で震えているココを見つめた。
「落ち着いた?」
こくりと頷いたのを感じ、身体を離す。
柔らかな白い頬をポロポロと涙が流れていた。
「どうしたの、悲しくなった?」
「分かんない、胸がむかむかするの」
「吐きそう?」
「吐けない…いつもと違うの」
柔らかな小さな両手を握る。
子どものような手の甲を何度も親指で撫でた。
ポロポロと流れる涙が綺麗で、ずっと眺めていたいような気がする。
「古道、どこにもいかないで」
小さな声で囁いたココの目元に口付ける。
唇に感じた涙の味に、古道は小さく笑った。
「ココちゃん、俺はどこにもいかないよ。ずっとお前のそばにいるよ」
じっとココの薄く膜の張った瞳を見つめて、そう答える。
張られた膜が崩れて、ぽたぽたとこぼれ落ちた。
「うん…」
震えはやっと収まって、握った小さな両手を引いた。
胸の中に倒れこんできたココのつむじに口付ける。
両手を離して、ソファーの肘掛に背中を預けた。
ココの背中に腕を回して優しくぽんぽんと撫でる。
「…俺のココちゃんは可愛いなぁ」
「なんで…」
「俺のことが大好きで、取られちゃうって思ったんでしょ」
「…わかんない、でもどこにもいっちゃやだっておもったの」
甘えたような声に、古道は笑う。
ぎゅっとしがみついて、顔をうずめてくるココの柔らかな黒髪をなでた。
「俺は一生ココのそばにいる。お前もそうでしょ?」
「ん、うん、ココもずっと古道といっしょにいる…」
「涙が止まった、いい子だね」
顔を上げて上目遣いで見つめてくるココの額に口づけた。
落ち着いたのか目がとろとろと溶けてくるのが見える。
瞬きが増えて、瞬きの時間が伸びていくのを、古道は静かに見つめていた。
「いいよ、ゆっくりおやすみ、ココ」
「ん…、こど、う、だいすき…」
静かにまぶたが閉じて、柔らかな寝息が聞こえてくる。
眠りについたココを起こさないようにネクタイをほどいて、ブランケットをしっかりかけた。
いつもより穏やかな寝顔と寝息に思わず頬が緩んだ。
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