初めてを失った日
春なのに、とても暑い。
窓から入る日差しがとても暑い。
こんな暑い日は、嫌なことを思い出す。
目を開けていても浮かぶ光景。
冷汗が止まらない。
指先が震えて、身体の奥底から冷たい水が溢れてくるようだ。
中学校の二年二組の教室。
暑くて暑くてたまらない教室の中、学ランを脱いでワイシャツになっていた。
パタパタと下敷きで風を作っても、額を伝う汗は止まらない。
零れる息さえも暑くて、仕方がない日だった。
「 」
「やめて…っ」
「 」
「いやっ、やめて、いや…っ、いや、いや…」
生温かくて、生臭くて、べだべだとしていて、とても醜い。
熱い、熱い、熱い。
熱くて、苦しくて、死んでしまいたい。
まるで蒸した鍋の中のように湿って、じとじととしていた。
肌を焼き付けるほどの熱い日差し。
耳元の荒い息。
醜い、黒いモヤモヤとしたものに下敷きにされて…。
初めてを失った。
大切な人に、捧げたかった。
ココの初めてを、失った。
「ココ、こーこ」
「…死にたい、」
「…今日は春なのに夏みたいに熱いからな」
ひんやりとした感触を額に感じ、はっと意識を教室に戻した。
着ているのは高校のブレザーだし、あの時よりも成長している。
冷たい手の感触に手の主を見ると、早まっている心臓がゆっくりと落ち着いていく。
その手をそっと握って首元に運び、その冷たさを感じる。
「…気持ちい。暑い日は嫌い」
もう片方の手が伸びてきて、また額に触れる。
教室の暑さを思い出させないくらいに、その冷たさに酔った。
窓の方に視線を向けると、桜の花が散っているのが見える。
「許さない、許さない、許さない」
絶対に。
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