痛み
「ココちゃん、どうしたの」
「貧血じゃないか」
「ああ、よく貧血起こしてたらからな」
ココを抱き上げながら、古道が柔らかな頬にキスを送る。
それから、ゆっくりと立ち上がり、保健室に行くと伝えた。
「そういえば」
不意に上がった声を聞き、古道はそちらをむく。
会長が書類から顔を上げ、こちらを見ていた。
「書類を頼んでから、こいつが来るまでに40分近くかかってる。桜庭がその資料をあらかじめ作ってないことは考えられない。おかしいと思ったのだが…、特に何も異変がなかったからほって置いた。もしかして、」
「…あぁ、もしかして、何かあったかもな」
そう言いながら、ココをぎゅっと抱きしめた古道は、生徒会室にいるメンバーに礼を告げてから部屋を出た。
光は見送ってきます、と会長に告げてから、ふたりの後を続く。
意識を失っているココを、隣から覗き込んだ。
「…眠っていると、うんとこどもに見えるな」
「そうだろ。ココちゃん、あんまり人に眠っている姿見せないから、貴重だよ。拝んでおきなよ」
「はは。心路に失礼だろ」
「ん…」
小さな声が聞こえてきて、ふたりは足を止めた。
腕の中のココを見ると、ゆっくりと目を覚ます。
目を覚ましたココはふわりと柔らかな暖かい笑みを浮かべた。
古道が息を飲む音が聞こえて、光は古道を見る。
それから、ぎゅっと強くココを抱きしめた。
「おはよ、心路」
光にもかすかに聞こえるくらいの声で、心路、と呼んだ古道の声は震えていた。
その姿は泣いているようにも見えて、光は声をあげられなかった。
「…、こど…、ココ、寝てたの…?」
「多分、貧血起こしたんだろう。大事をとって保健室に今向かってるよ」
「そ、っか…」
ココの表情はあの柔らかな暖かい笑みを浮かべていなかった。
いつも通り、無表情のその顔に、光は少し寂しい思いをする。
古道も先ほどの切なそうな雰囲気はなくなっていた。
「会長から預かった資料を風紀室に届けるから、ここで」
「ありがとな、ひーくん」
「ああ。心路、お大事に」
「うん、ありがとう、ひーくん」
光と別れて、保健室の方へ向かって行く。
ココは疲れているのか、ぐったりと古道に身体を預けていた。
「ココちゃん、生徒会室に行くまでになにかあった?」
「…ん」
「そっか」
保健室につき、ドアを開ける。
保健医に用件を伝えてから、ココをベッドに下ろした。
「軽い貧血だろう、それになにか疲れるようなことしているのかな? 疲れて眠っていたようだね」
「休んでいれば大丈夫ですか?」
「ああ、今日明日はゆっくりしていなさい」
「…はい」
こくりと頷いたココと一緒に古道も返事をした。
それからもう帰っても大丈夫、と伝えられて、古道はココを抱えて立ち上がる。
抱き上げられたココはぎゅっと抱きしめられてもらって、ホッとした。
「お部屋戻ったら、えっちしたいなあ」
小さな声で呟いたココに、古道はコラ、と笑った。
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