普通に
「っは、ぁ…っく、」

「…っ、ん、あン」

「犬山…っ、犬山っ」

「ん、…アッ、もうおし、まい…」

なんども薄い膜の中に吐き出されて重たくなった膜と共に体内から引きずり出ていく。
その感覚に苦しくなりながらココは、今まで自分をかき抱いていた相手をじっと見つめた。
相手は深く呼吸をしながらココを見つめ返す。


「犬山、」

「唇は、だめって言ったでしょ…」

「犬山、もう一度、」

「だめだよ。ココ、お使いの途中なの。こんなに遅れたら怒らせちゃう。会長様に、書類渡さないとなの。今人が足りてないから、急がないと…」

「…っ犬山」

「いい子にならないと、誰もあなたなんて見ない。悪い子は、みんな嫌い。ひーくんだって、そんなあなたのことなんて、嫌い」

そう言って立ち上がったココは、身だしなみを整えてから座り込んだ男を見る。
目を瞑ってから小さく口元だけで笑った。


「ふふ、ひとりぼっちだね、あなたは」

最後にそう呟いてから、空き教室を出て行った。
後ろからココを呼び止める声が聞こえる。
聞こえてきた声に小さく笑いながら、ココは急ぎ足で生徒会室へ向かった。


「心路?」

生徒会室にノックをして、返事があってはいれば光が立ち上がった。
中央の大きなテーブルについている会長は眼鏡をかけて、難しい顔をしている。
光の声に視線を向ければ、優しい顔をした光が心路の方へやってきた。


「…具合悪いのか? 汗かいてる」

ココの額の汗をぬぐった光は、ソファーを勧めてくるがココは書類を見せながら首を振った。
生徒会室内には書記と会計がいる。
どちらもココに視線を向けているが、その視線には答えずに光だけを見つめた。
唇でありがとうと伝えてから、会長の元へ歩く。


「…珍しいな、お前がくるなんて」

会長の言葉にココは表情を変えず、書類を両手で渡す。
すぐに生徒会室を出たいと思った。
それでも会長が何かを訴えるような視線で見つめてくるから、静かにその瞳を見つめた。


「…体調は、大丈夫か」

少しだけ控えめな声で聞かれ、ココは小さく頷いた。
会長の手は小さく震えている。


「ならいい。書類の返信があるから、少し待っていてくれ。榎本、お茶でも。そこに座りな」

会長の言葉に頷いてから、腰を下せば、光がお茶を持って来た。
隣に座った光は、ココの具合を心配しているのか額に手を当てる。
触れて来た手のひらはとても冷たく、どこか体もだるいような気がして来た。
こてんと光にもたれかかると、光が生徒会室に備えられている電話に手に取りどこかに電話をかける。


「ああ、手はあいたのか。今から、頼むな」

「誰…」

小さく聞こえないように尋ねれば、光も小さな声で答える。


「大神に電話をかけた。仕事も終わったようだから、迎えにくるってさ。…安心したか」

首を縦に振ったココは俯いて手のひらを眺める。
早く古道と一緒にお風呂に入って、抱きしめてもらって…、ゆっくり眠りたい。


「心路、大丈夫か…」

大丈夫と、笑みを浮かべようとしたら、目の前が真っ暗になった。
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