これって
あの光景を見てから、数日が経った。
いつのまにか、片割れのそばには気にくわないクラスメイトがいる。
胸の中がもやもやと渦を巻いて重く嫌な気持ちがくすぶっていた。


「心路、そこ濡れてるから気をつけな」

「ひーくん、俺には言ってくれないの」

「大神は気をつけなくても大丈夫だろ」

小さな黒髪を真ん中に歩く片割れは、いつもよりどことなく楽しそうに見える。
いつもなら、自分が隣にいたのに。
そう思うと暗い気持ちにどんどん飲まれていく。


「あ、そういえばひーくん、ココちゃんが今度部屋に遊びに来てって」

「いいのか」

「別に、俺はココちゃんがいいならいいよ。それにひーくんなら俺が呼びたいくらいだし」

「お前ら、なんでそんなに俺のこと気に入ってるんだ」

「えー? 飼い主様に似てるから」

「心路も同じこと言ってたな」

3人の話し声が嫌でも耳に入って来て、灯は思わず舌打ちした。
目をそらし、空いている教室に入る。
重たくなった胸を解放したくて、ため息をついても胸の重みは治らなかった。
あいにく、灯の心を同じように曇った空のせいで教室の中は薄暗い。
机に腰をかけてもう一度ため息を零したら、廊下の方からこの学校では今まで聞こえてこなかったバタバタと騒がしい足音が聞こえて来た。


「灯ーっ、灯どこにいるの! なんども呼んでるのにっ」

聞こえて来た声が耳障りに聞こえるような気がする。
そんなことはない、そう思いたくて深呼吸して空き教室を出て行った。


「あっ、いた! もうっ、なんでどっか行っちゃうのっ。二と一緒に生徒会室いこうってはなしてたじゃんっ」

「せ、生徒会室? どうして」

「だって、帝都とか翔太に会いたいしっ。最近一緒に遊んでないから、たまには息抜きしないと」

「…先輩たち、仕事してるから…」

「仕事仕事って、学生なんだから遊ばないとっ」

「でも…」

「いいから行こっ」

掴まれた手首が痛い。
これから連れて行かれる先には、片割れが向かっているはず。
行きたくない気持ちと、少しでも顔を見たい気持ちがごちゃ混ぜになって苦しかった。
前を行く桜はなんでだろうか、楽しそうでキラキラしている。
それでもこの光景は綺麗に見えるのだろうか。


「灯っ」

「なに?」

「楽しいねっ」

これって楽しいの?
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