もう許されないのだろうか
「ココちゃん、榎本光とは話してもいいよ」

「…どうして?」

「もう、一回声を聞かれてるし、あの人はいい人そうだから」

「うん、そうだね。ココも優しい人だと思った。お兄様見たい」

ココは古道の入れたココアを飲みながら、頷いた。
両手で持ったカップの中からは湯気が立っている。
ゆらゆらと揺れる湯気が時折ココの表情を見えにくくした。


「ココちゃん」

「なあに」

「…いや、なんでもないよ」

「変な古道」

そう言ってまたココアに視線を向けたココに、古道は聞かれないくらい小さなあため息をつく。
ソファーに小さく座った姿を眺めながら愛おしさが胸に溢れてきた。
古道も自分用のカップを持ち、弟の隣に座る。
そっと肩を抱けば、ココはこてんと頭を古道の肩に預けた。


「古道、大好きだよ」

囁くような甘い声に、古道も頷いてぎゅっと抱きしめた。






「光っ」

見慣れた背中が渡り廊下の窓を眺めているのが見えて、灯は思わず声をあげた。
名前を呼んで駆け寄ると、片割れはすぐに振り返ってくれる。
目の前の自分とよく似た顔が見えれば、すぐに抱きつく。
暖かい体温を感じれば、ホッとした。


「どうした、灯」

「…何にもない」

「変な奴だな。そうだ、お前そろそろ生徒会の仕事しないとダメだぞ。俺たちは立候補して生徒会に入らせてもらってるんだから」

「う、うん…。そうだけど…、さ、桜が」

桜が。
口にした途端、光の雰囲気が変わったことに灯はすぐに気づいた。
光が桜のことを嫌っていることは知っている。
それに、誰かのせいにするような言葉を嫌っていることも知っている。
口に出した瞬間、ダメだと感じた。
光に、見捨てられる。


「…お前、自分のやりたいこと、しなければいけないこと、忘れたのか。花咲が全部決めないと動けないのか。…見損なったよ」

「…っ、光っ」


「…当分顔も見たくない」

腕が振り払われて、背中を歩いていく姿が遠い。
いつもそばにいて、隣にいて、呼吸さえも感じられる距離にいたのに。
離れていく光が遠かった。
もうそばに行くことさえも許されないのだろうか。


「ごめん、なさい…」

小さく漏れた言葉は、光には届かなかった。

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