上から見下ろす
渡り廊下の窓の外から古道とふたり、窓の外を眺める。
窓の外では騒がしい声が飛び交っていた。
ココの小さな手がそっと古道の手に触れて、ゆっくりと指先が絡まる。


「だいぶ人数が減って、焦り始めてるみたいだね、ココちゃん」

こくりと頷いて、ココは頬を緩めた。
蕩けるような笑みに、古道も緩く笑う。
ココの頬を撫でて、そっとキスをした。


「副会長と生徒会役員だけ」

小さな声で呟いたココは、古道の唇を甘噛みした。
甘い刺激に古道はココを抱きあげる。
背中をポンポンと叩いて小さな体に頬を摺り寄せた。
お部屋に戻ろうかと囁いて、ふたりは寮へ向かっていった。




桜が散って、青葉になり、青葉もちらちらと色を変え始めてきた。
体育祭も終えて、学校の中は緩やかにテストに向かっている。
そんな中、榎本灯は賑やかな中庭にいた。
中庭は残暑を終えようと涼しくなり始めている。


「灯、今日は何して遊ぶ? 二がね、お菓子もってたから食べよう!」

「…」

紅葉し始めている木を眺め、いろいろな思考が回っていく。
桜が何か言っているようだけれど、あまり頭に入ってこない。
頭に浮かぶのは、自分の片わればかりだった。


「灯ってばっ」

ぐっと強い力で手首を掴まれてハッとする。
顔を上げると、いつものニコニコした明るい顔ではなく、無表情を携えた桜がそこにいた。
背中が冷えるような感じがして、急いで桜の笑顔が戻るように微笑む。


「桜ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった」

「変な灯っ。話聞かないのダメだよ!」

「うん、ごめんね」

「いいよ、謝ってくれたから! ね、二がお菓子持ってきたから食べてこよ!」

掴まれた手首の力は弱くならず、そのまま手を引かれた。
会計の村松と書記の川口が桜のそばを離れてから、桜はどこか変わったような気がする。
灯はそんな桜を思うと、どこか虚しくなった。

ふと、渡り廊下の方へ視線へ向けると、頭から離れない片われがそこにいた。
片われと一緒にいるのは、最近桜が執着している風紀委員のふたりだった。
親しそうに話している3人を見て、灯は視線をそらす。


「早くお菓子食べに行こう」

そう言うと桜は嬉しそうに笑顔を見せた。
なんとなく、それが嘘くさくて…。
灯も嘘くさい笑みをそっと浮かべた。

自分でも誰に気持ちを向ければ、楽になれるのかわからなかった。
桜と出会って、双子の片われのことしか考えられない自分を、ずっと一緒にいたいと思ってしまう自分を認めてもらえたような気がした。
それから…、桜のことを好きでいれば、いつかそんな気持ちも忘れてしまえるのではないかと思っていた。
どこか違うかもしれない、そんなこと…、忘れるなんてできないかもしれない。
最近そんな考えが頭をよぎってしまう。
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