声を聞かせて、名前を呼んで
シャワールームから戻ったココを連れて4人は食堂へ向かった。
風紀委員幹部、生徒会役員専用の二階の席で夕食を食べる。
相変わらずココは食事に手をつけようとせずにぼんやりと窓の外を眺めていた。
「ココちゃん、食べないの」
こくりと頷いたココは静かに笑みを浮かべた。
ぼんやりとしているココに、聖が笑いかける。
「仕方ないね。帰ったらちゃんと食べるんだよ」
「聖委員長。甘やかしすぎではありませんか」
「いいんだよ。この子たちは学園の宝だからね。この学園が平和に保たれてるのはこの子たちのおかげだよ」
「まあ、確かに…。ココ、少しずつでいいから、古道と私が作ったもの以外も食べれるようにならないといけないわよ」
もう一度頷いたココに、古道はそっと小さな手を握った。
その手のぬくもりが、愛おしくてたまらない。
好きだと、深く思い知って、なおさら愛おしさが増していく。
ココの頬にそっと手を伸ばした時、大きな叫び声が聞こえてきた。
「二先輩っ、早く早くっ」
「ふふ、待ってください、桜」
「灯も早く〜っ」
「待ってよ〜。桜そんなに急がなくたって、席は空いてるよ」
「翔太も!」
「んー」
嬉しそうに階段を駆け上がっていく桜を見ながら、村松はうんざりした。
なぜ率先して役持ち専用のスペースに向かっていくのか、今思えばおかしいことだ。
そのことに気づいてしまった村松は桜のひとつひとつの挙動が、不可解に思えてしまう。
自分を変えてくれた犬山に出会ってから、どうしようもなく桜がうっとおしい。
階段を上った先には、すでに風紀委員幹部席に風紀委員の幹部が揃っていた。
その席にいる犬山の姿を見つけると、心が早鐘を打つ。
「あ!」
風紀委員を見つけると桜を大きな声をあげた。
その声を煩わしそうに大神が眉をひそめる。
大神の手をぎゅっと握っている犬山が振り返った。
甘いタレ目と視線が合い、村松を息を飲む。
それからごめんね、と小さく唇で誤った。
こくりと頷いた犬山に、なおさら心が動きだす。
「大神だ〜! ね、こっちで俺と一緒に食べようよ!」
やかましい声に眉間にしわを寄せた古道は、ココに視線を移した。
小さく指先が震えていて、能面のように表情を失っている。
その様子に気づいた聖が古道、と名前を呼んだ。
「ココちゃん、行くよ」
手をつないだまま立ち上がるとココはホッとしたように息を吐き出す。
それからゆるく口元で笑ったのを見て、古道も同じように安心した。
渡り廊下へ向かおうと向きを変えようとすると、古道の腕が引き止められる。
「どこ行くの! 一緒に食べようよ」
「触んな」
そう言って花咲の腕を振り払い、古道はココの手を引き食堂を後にした。
「なんで俺のとこに来ないの! みんな、いるのにっ」
叫び声が閉じた扉の奥から聞こえてくる。
ココに聞こえないように話しかければ、嬉しそうに笑う姿が見られた。
「誰もいないから、声を聞かせて、ココ」
「なあに、甘えたいの、古道」
「そうかもしれない。ココ、もっと名前呼んで」
「古道、こどー、古道」
嬉しそうに何度も名前を呼んでくれる。
ぎゅっと締め付けられた心臓がココが名前を呼んでくれる度に、高鳴った。
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