怪物の告白
古道だけでは不安だと思ったのか、タオルを抱えたセイが走ってきた。
そばに寄ってきたセイは戻りますよ、と声をかけて、ココを抱えようと古道の肩を叩く。
それでもココを離そうとしない古道にセイはため息をついた。
「ほら、ココが風邪を引くでしょう。これで包んでからにしなさいよ。あったかい紅茶、用意してるから。帰るわよ」
古道にタオルとひざ掛けを見せる。
何も言わない古道の手にそれをかけると、古道がゆるゆると動き出した。
ココをタオルをとひざ掛けに包んでもう一度抱きしめ直す。
いつもなら少なからず一言二言は喋る古道が静かに黙ってココを抱きしめていることに首をかしげながら、セイは会長に視線を移し笑みを浮かべた。
「会長様、うちの子がご迷惑をおかけいたしました。会長様も風邪をひかないように、早めに体を温めてくださいね」
「…、あぁ」
セイは会長にもタオルを渡しながらもう一度微笑み、二人に帰りますよと声をかけた。
立ち上がった古道がココをしっかりと抱えていることを確認してから、帰るよと背中を叩く。
風紀室に戻ってから、古道をココから引き剥がし、ココをシャワー室に押し込む。
小さな声でヤダヤダと首を振りながら言うココに終わったらマカロンあげるからと、物で釣りながらシャワー室で身体を温めさせた。
放心状態で立ちすくんでいる古道に着替えるように声をかけると素直に頷いて仮眠室に着替えに行く。
「あの子達どうしたのかしら」
「最近茹だるように暑かったからね。それに、あの子達も大人になる準備をしているのだろうね」
「…特に古道が変だわ」
「ココよりも古道の方がまともに近い方だから、少しずつ戻っているんだろう」
「…何も起こらなければいいけれど」
そう言って苦笑するセイに聖は微笑み返した。
着替え終わり戻って来た古道はソファーに腰を下ろす。
頭を抱えるように俯いた古道の隣に聖が座る。
「どうかな。お前の気持ちに何か進展はあったのかい?」
「…ココのことが、好きだって、思い知った。俺は、優しくできない。俺に縛り付けることしかできない」
「うん」
「ココは、ココは、俺のために自分を傷つけている。俺はそれを嬉しいと思っていたんだ」
古道は小さな声でポツポツと話す。
外の雨音は強くなっていき、小さな声は聞き取りづらい。
聖は古道の背中をそっと撫でた。
「でも、な、心の奥底で、それを悲しいと思っていたみたいだ」
「あぁ」
「ココが笑わないように、俺は、きっと…悲しみとか、苦しいとか、そういう気持ちを、あの日々に置き去りにしてきたみたいだ。それが、」
「今更帰ってきた?」
「あぁ…涙が、止まらないんだ。クッソ…」
うなだれて涙をこぼす古道の頭を撫でる。
ぎゅっと強く握り締められた拳に、聖は頷いた。
「俺は、人間のふりをしていた、怪物みたいだ…」
古道の告白に聖は頭を撫でる手を止める。
それから古道の頬に手を添えて聖の方を向くように促した。
「ちゃんと人間になれたんだよ。僕のかわいい弟達」
聖の笑顔に、古道は少しだけ救われたような気がした。
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