壊させない
静かな保健室のベッドに腰掛け、ココは窓の外を眺めていた。
その隣で古道も外を眺めている。
外の暑さは部屋の中でも伝わってきて、じわじわとグランドを照らす太陽にココは呼吸が荒くなってくるのを感じた。
「っは、っは、暑、熱い…」
目を瞑ると真っ白な熱い教室を思い出す。
荒くなった呼吸の中で、ココは胸を押さえた。
「ココちゃん、熱いね。外、体育祭やってるね」
「体育祭、はっ、はあっ、」
「嫌い?」
「きら、い…、古道が、そばにいてくれない」
「そう。俺もココちゃんのそばにいれないから嫌いだよ」
徐々に落ち着いてきたココに、古道は笑いかけた。
そっと肩を抱きしめて、ココのこめかみに口づける。
ココはあいつが来てからずっと細くなった。
それから、手の甲についた痣が増えた。
このまま、消えてしまうのではないか、そんな風にさえ思った。
「ココちゃん、どこにも行かないで」
「どこにもいかないよ。古道のそばが、ココの居場所だもん」
「うん、そうだったね。でも、どこにも行かないで、俺のそばにいてね」
「うん。古道大好きだよ」
そっと手を繋いで、指をからめあって、肩に寄りかかる。
ココの小さな体の重みを感じながら、古道はずっとなくしていたものが戻ってきたような、戻りかけているような気がした。
ココの隣にいるのは自分がいい。
「ココね、古道と出会えて本当に良かった」
「うん、俺も」
「ね、相思相愛だね」
「うん」
笑い方の変わったココが、とても愛おしい。
小さな手も、小さな体も、誰にも聞かせたくない声も、全部全部愛おしい。
離したくない。
ココの左の薬指に掘ったKの文字を指先で撫でて微笑んだ。
「閉じ込めちゃいたいよ」
「ココも古道に閉じ込めてほしいよ」
静かな、清々しい部屋の中に入ると、ふたりが寄り添う姿が見えた。
勇気はそんなふたりの後ろ姿に心を奪われた。
「きれい…」
空調の風に揺れるぬれ羽色の髪と金髪が揺れる。
優しいバニラの香りに包まれて、ふたりが穏やかな時を過ごしている。
どうしようないくらい狂おしい気持ちになって、勇気は胸を押さえた。
「ああ、きっと、ふたりだから、きれいなんだよ。あの子になんて、壊せない。…壊させない」
勇気は震える唇で小さく囁いた。
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