幸せって
「それにしても、榎本くんはいい子だね」

「は? そんなことはありませんけど」

「生徒会には勿体無い。君さえよければ風紀委員になってくれないかな」

「とても魅力的な誘いだが、一応会長を尊敬しているので」

「そうか。残念だ。でも僕は案外諦めが悪いからね、ご覚悟を」

「怖いな」

紅茶を飲みながら言う聖に苦笑しながら榎本は着替え終わって落ち着いたふたりを見た。
古道はココを抱きしめ、ココも古道にしっかり抱きついている。
そんなふたりに小言を言うセイは、榎本に気づくとふいっと視線を逸らした。
それから聖の元に来て、そろそろ、と告げる。


「悪いけど、また帰り際に変な気起こして周りに迷惑をかけてしまわないように、送ってくれないかな、ふたりを」

聖にそう頼まれて、榎本は頷いた。
榎本自身も同じことを考えていたため、快く引き受ける。


「ほら、ココを早く寝かしてあげなさい、古道」

「帰り際に変な気を起こすんじゃないわよ、古道」

ふたりにそう言われ古道は笑いながら手を振って立ち上がる。
それからすぐに風紀室から出て行った。
榎本も紅茶の例を告げてから、すぐにふたりを追いかける。


ぐっすりとは眠ってはいないが、ココは疲れ切っているのか、人がいるところでは眠れないのに珍しく眠っている。
古道はごめんな、と小さく囁いて、隣を歩く榎本を見た。


「止めてくれて、正直助かった。今日は理性がぶっ飛んでた。…本当にココを殺しそうだったわ」

そういう古道に眉をひそめ、榎本はため息をついた。
悪いことをしている自覚がないようだ。
もう一度ため息をつき直してから、榎本は古道を見る。


「…何が楽しいんだ」

「わからない。ただ、俺たちはそういう関係だから。俺が死ねば、ココも死ぬ。ココが死ねば、俺も死ぬ。ふたりでひとりなんだ」

幸せそうに笑う古道に、榎本は視線を逸らした。
それから腕の中で死んだような表情で眠るココを見る。


「…付き合ってるのか」

「手もつなぐ、キスをする、セックスもする。腹違いの兄弟だよ」

「そうなのか…」

古道の言葉に驚きはしたものの、嫌悪感は抱かなかった。
隣を歩くふたりがやけに幸せそうだからか。
榎本は少しだけこのふたりをかわいそうで、それでいて羨ましくなった。


「不毛ではないのか」

「不毛だな」

そう小さな声で尋ねると、古道は答えながら小さく笑った。


「…そういえば、あんたはあのクソガキにつきまとわねえのか」

「俺はああいうのが好きではないんだ。そもそも、俺は女の子が好きだからな」

「そうか。それは良かった」

そう言って苦笑した古道は腕の中で眠るココを抱え直した。
優しい小さな寝息が聞こえてきて、微笑む。

部屋に着くと古道は榎本をじっと見つめた。
それから小さく笑う。


「きっと、あんたみたいなやつならココを大切にできるのかもしれないな」

その言葉に、榎本は苦笑した。
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