人形
いつの間にか自分の母親が、心路の母親と呼ばれる人に変わってふたりは小学二年生になった。
二年の月の中で古道と心路は距離を縮めている。
お互いをかけがえのない存在として認め合い、常に行動を共にする。
そんなふたりに変わっていた。
「心路、古道出かけるわよ」
古道が心路と出会った日の時のような煌びやかな服を着ている母親に呼ばれ、ふたりは駆け寄った。
そこに服あるから、着替えなさい。
母親に指差された方には綺麗な服が置かれていて、ふたりはすぐに着替えた。
どこに行くんだろうね、そう言って笑った心路の表情から、期待が感じとられる。
古道はそんな心路の表情に一抹の不安を感じた。
「心路、手繋ぐ?」
「うん、つなぐ。古道の手、冷たいね」
「そうかな」
「うん、ひんやりしてて、気持ちーね」
ふたりで笑いあって、歩いていくと小さな一軒家にたどり着く。
母親はそこの鍵を開けると、入りなさい、とふたりを家の中に導いた。
リビングのソファーには男が座っていて、その男はふたりを見ると笑いかけてくる。
「心路、古道、あんたたちの新しい父親だよ。前のあの男のことは忘れなさい」
「…お父さん?」
「そうよ、挨拶しなさい」
母親の言葉に、古道は嫌な予感が当たったことを感じた。
心の底から、その男の笑顔から胡散臭さを感じた。
「お父さんっ」
古道の手から離れて、お父さんと呼ばれる男に駆け寄っていった心路に手を伸ばす。
小さな背中が嬉しそうに揺れるのを見て、古道は嫌な予感が炎のように胸に焼きつく感覚を覚えた。
「古道、何してるの」
寝室から出てきたココは目をこすりながら、声をかけてきた。
その目元にはくまが見える。
ココのそばにより、そっとその目元を指先で撫でて柔らかな髪に口付けた。
「んー、紅茶飲んでる。ココちゃんも飲む?」
「ん、飲む」
ちょこんと膝の上に乗ってきたココに腕を回し抱きしめる。
あの頃と変わっていないのは、こども体温のその身体だけだった。
「ココちゃん、可愛いーね」
「なあに、古道」
「んーん、なんでもない」
「変なの」
ゆるく口元を動かしたココに笑う。
古道のマグカップで紅茶を飲むココの首筋にキスをする。
柔らかな肌が心地よい。
「ふふ、古道大好きだよ」
「俺もだよ、ココちゃん」
可愛い弟は、いくつも深い傷跡で、昔のように笑えない、人形になった。
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