甘く
「ココちゃん、他の奴ら寝たみたいだから、ちょっと外いかない?」

全員が寝静まったのを確認して、古道はココに声をかけた。
頷いたココはゆっくりと身体を起こし、うんと腕を伸ばす。
その腕に答えるように古道はココを抱き上げて、頬にキスをした。


「寒くない?」

「うん、平気」

「ならよかった。ココちゃん軽いねぇ」

「抱っこしやすいでしょ?」

小さく笑ったココに、古道は笑い返す。
抱きしめていても飛んでいってしまいそうな彼をぎゅっと抱きしめた。
玄関を出て海まで歩くと、星空がきらきらと輝いていてココは思わず感嘆の声を漏らす。
それにつられて空を見上げた。


「こんな空、見たことない」

「そうだね」

砂浜に腰を下ろして、ココの耳に口付ける。
口付けられたココはくすぐったそうに身をよじり、古道の手を握った。
小さな温かい手から体温が交じり合う。


「古道」

「なあに、ココちゃん」

「お願い、もっと抱きしめて」

もっと、と、小さな声で求められる。
ぎゅっと細い身体を抱きしめて、柔らかな髪を撫でた。
星空を見上げて、息を吐く。


「好き」

「うん」

「好きだよ、古道」

「俺も」

「…好き、」

意味が分からなくなるくらい何度も伝えてくる悲しい言葉に、古道は何度も答えた。
ココが落ち着くまで、ずっと、何度も、キスを交わし言葉を交わし、愛をささやく。
カナリアのように楽しそうに笑うココの言葉を思い出しながら。


「大丈夫だよ、心路」

低い声が優しくココの心に入り込んだ。





「今回の伝統行事でみんな得るものを得たと思う。その得たものを自分のものに出来るように、学校に帰って、精一杯、学生生活を送ろう」

会長の言葉に頷いている生徒たちを横目にココはまっすぐに花咲を見た。
古道をちらちらと見ている花咲を笑った。
解散を告げられ、ばらばらと歩きだす生徒の中、会計を見つけ出す。
そっとそばに近づいて、くいっと裾をひく。


「…ふたりだけの、秘密だよ」

ココの小さな甘い秘密に、村松は頷いた。
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