接触
部屋に荷物を運ぶために、研修施設の管理人がやってくる。
説明を受けてから、自分たちでキャリーバックを運んでいく。
これも研修旅行の醍醐味の一つだった。
普段は荷物を運びこむのも、金持ちの子息である生徒たちは滅多に行わない。
キャリーバックを運ぶのに苦労している生徒が何人もいる中、ココと古道は静かに部屋に向かっていく。
他にも、自分のことは自分でする、それがこの研修目的でもあった。
同じ部屋になる生徒たちよりも先に部屋に入ったふたりは、手をつなぎ微笑んだ。
それから踊るようにじゃれあいながら、ベッドに倒れこむ。
押し倒されてベッドに押し付けられたココは小さな笑い声を漏らした。
「だめ、キスして」
「もちろん。当分、キスもえっちもできないかもしれないからな」
柔らかな真っ赤に染まった唇にキスをしながら、シルクのような手触りの髪を撫でる。
身体を触れ合せ指を絡み合わせた。
「ん、は、…古道、」
「ああ、ここまでね」
「古道」
もう一回先ほどのキスよりもずっと幼いキスをしてから、二人は身体を離す。
ゆっくりと立ち上がって抱き付いてきたココの小さな背中をそっと撫でた。
廊下からにぎやかな声が聞こえてきて、ココは古道から離れる。
軽く唇を触れ合せてから、ふたりは荷解きに取り掛かった。
「部屋ここだって! 翔太」
「綺麗なところー? …って誰かいんじゃん」
「俺たちだけじゃないみたいだねっ」
部屋に入ってきた声に、ココがビクリと身体を震わせた。
その背中を撫でてから、古道はココの前に立つ。
「どうも、俺は大神。こっちは犬山」
「あっ、っと、俺は、花咲桜ですっ、よろしく!」
「…村松翔太だよ〜。桜には手を出さないでね」
「か、桂木勇気です」
「俺と犬山はこっちのふたつのベッドを使うから。後は好きに選んでくれる」
そう言って、古道はココの背中を押して洗面所へ連れていく。
後ろから花咲が何かを言う声が聞こえてきたが、古道は答えずに進んだ。
洗面所の扉を開き、中に入ってから鍵をかける。
荒い息を零すココの背中を優しく撫でた。
「ココ、大丈夫?」
「ふ、うん…、はっ、おち、ついてきた・・」
「あまり長くいれないから」
「うん、大丈夫。大丈夫…、古道、キス、キスだけして」
ココの願いに応えてから、ふたりは洗面所を出た。
ココたちのベッドは綺麗で荷物もしっかりとまとめられている。
しかし、桜と村松のベッドの周りはお菓子の食べかすや袋だけが残っていた。
勇気はベッドに座り、ため息をついている。
「勇気クン、彼らは?」
「…もう集合場所に行ったみたい、あの犬山くん、大丈夫…?」
「大丈夫だよ。勇気くん…、心配しないで」
ココは小さく笑って、勇気の手を取る。
それから立って、と囁いた。
俺たちも行くか、と古道が呟き、三人は部屋を出ていく。
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