風紀委員会
風紀委員会室に入り浸るようになってから、身体の青痣が減ってきたような気がした。
風紀委員長のためのお茶を運ぶのもだいぶ様になってきたと思う。
勇気はそっと風紀委員長の大き目のテーブルの上に、お茶の入った湯呑を置いた。
「ありがとう。ちょうど飲みたいと思っていたんだ。桂木君は気が利くね、申し訳ない」
「いいえ。ここに置いてもらっているだけですごく助かってて…。ちゃんとお礼がしたいんですが、俺にはこれくらいしかできませんから」
「ふふ、いい子」
今は生徒会の仕事を手伝うために、委員何人かと副委員長と風紀のイヌであるふたりが出払っている。
そのため、勇気は委員長とふたりきりとなっていた。
委員長は常に綺麗な笑顔で、とても優しい。
「勇気くん、このまま風紀に入ってくれても構わないよ」
「えっ、あの…」
「冗談だ。…さて、愛犬たちが戻ってくるころだ。セイの作り置きのお菓子を出しておいてくれるかな」
「はい」
少しだけ期待をしてしまった。
ここに所属すれば、ずっとあの綺麗で美しい子と一緒にいれる。
そんな風に思ってしまったからだ。
名前を呼べないほどに、あの子に惹かれている。
口に出そうものなら舌先が甘く痺れた。
勇気は彼にそっと抱きしめられた時のことを思い出しながら、給湯室に向かう。
彼の大好物である副委員長の作り置きのお菓子を手に取り、戻ってくると風紀委員室の大きな扉が開いた。
今は委員がいない。
彼の滑らかで甘い声が聴けると思うと、胸が高鳴った。
「ただいま、飼い主様」
細い足が駆けるように委員長席に向かう。
座り心地のよさそうな椅子に座った委員長の足元に座り込み、彼は委員長の膝に頭を置いて撫でてと強請る。
いつものその儀式のような仕草に、勇気はうっとりと目を細めた。
「勇気クン、それなに」
「あ、大神君。…えっと、副委員長様お手製のマカロン。これから、飲み物を淹れるんだけど、なにか…」
「いや、勇気クンはマカロン持ってっておいてくんない? ココちゃんの分と俺の分は俺が淹れるから」
「そ、そっか。ごめんね…」
大神に促されてソファーに戻る。
給湯室に入った大神は慣れた手つきでココアを作っていた。
彼の口に入る飲み物を一度もいれたことがない。
そう思い、勇気は少しだけ物足りない気持ちになった。
「心路、仕事はどうだった?」
「滞りなく進んでいたよ、この様子だとちゃんと決めた日程通りに行けるよ。あのね、ココもちゃんとお仕事したの…、あのね、だから…」
「うん。ココ、よく頑張ったね。お膝の上に乗ってもいいよ」
机の下で彼の表情は見えなかったが、いつもよりもうんと甘く、上ずった声が嬉しそうだった。
すっと立ち上がった彼は甘えるように委員長の膝に座り、ぎゅっとしがみつく。
背中を撫でる委員長の手が、とても優しくて、慈愛に満ちていた。
「飼い主様、大好き」
小さな、それでも勇気の耳にはその声が入ってきた。
飼い主様、と呼ぶ声はまるで甘える子どものように幼い。
ああ、うらやましいな。
そう思うのと同時に喉の渇きを感じた。
「うちのココちゃん、可愛いでしょ」
耳元で低い声が聞こえて、勇気はばっと振り返った。
そこには口元だけ笑みを携えている大神がいる。
大神の表情に少しだけ恐怖感を感じ、勇気はごくりと唾を飲んだ。
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