笑わない人形
高等部生徒の親交のために、毎年二回開催される伝統行事がある。
我が校は国内外から金持ちの子息が集まるため、親交を深めることにより生徒たちが社会に出る際に有益な関係を作ることを目的としている伝統行事である。
一回目は六月の親睦会という名の研修旅行、二回目は冬のクリスマスパーティーがあり、それを計画、実施する。
計画、実施するのは我が校の誇る生徒会である。


「その生徒会がこの様なぁ。情けねぇったらありゃしねえな。九津かいちょー様?」

一学年学級委員達に説明している際に、ケラケラと笑いながらそう呟いた大神古道に九津は眉間にしわを寄せた。
この大神は九津にとっては難敵で、風紀委員長の桜庭よりも苦手意識を持っている。
九津が気にいっている生徒が、この大神の持ち物であるからである。


「ははー、後輩諸君、こんなバカ者になるなよ」

「ちょっと、古道やめなさいよ。会長様に失礼でしょうが」

「はいはい、風紀副委員長様。ちょっと俺抜けていいだろ、かいちょー様」

「お前が居ないほうがやりやすい。どうぞ、お出口はあちらですよ、オイヌ様」

ケッと悪態をつきながら会議室を出ていく古道の背中を見つめた。
おそらくこの後、あの生徒のもとに行くのだろう。
あの二人が離れているところをあまり見たことがない。
九津は舌打ちをしながら、怯えている1学年学級委員に行う説明を再開させた。


「あ、あの会長様。ここの旅行先のグループって何でしょうか」

「ああ、当日の行動は各学年を混ぜた混合グループで動いてもらう。我が校は生徒数が少ないこともあるため、このような体勢を取らせてもらっている。その代り1グループを編成する人数は多くなるが、交流を目的としているため、問題ない。それから、部屋割りも同じメンバーとなっている。そのメンバー表がこちらだ」

そういうと共に、生徒会庶務の生徒がメンバー表を配った。
級長たちはそれを確認して、それから要項とともにまとめる。
各学年の級長にはクラス内で最も学力の高い者がなるため理解するのも早く、説明はこの程度で終わった。
九津は以上だ、と告げてから、次の仕事に移ろうと立ち上がる。


「あー、くっそ、疲れた。疲労困憊だ疲労困憊」

級長たちが会議室を出ていったのを確認してから大きなため息とともに、文句を呟く。
大神は良いよなぁ、と心の中で思っていると、再度会議室の扉が開いた。


「…」

入ってきたのは悪態をついた相手である大神と、その持ち物という認識のある犬山心路だった。
犬山の姿を認め、九津は目を細める。
白い柔肌、左の口角の斜め下のほくろ、甘く垂れた目。
いつでもその姿を求めている。
愛おしいとかそういう気持ちではない。
ただ、その身体を思うままに堪能したい、そう思っていた。

くい、と大神の袖を引いた犬山は、屈んで犬山の口元に耳を寄せた大神に何かを囁く。
思わず舌打ちしてしまうと、犬山の眉がピクリと動いた。
大神は犬山の言葉に笑い声をあげて、九津を見る。
目の前で悪口を言われているようで、腹立たしい。


「こら、古道、心路。いい加減になさい。心路、このデータ入力と統計今すぐに出してください。古道は島内での見回りのリストの作成を会長としていなさい。ちゃんと終わらせないと飼い主様に言いつけますよ」

「はいはい。おっかねーな、副委員長様は。ココちゃん、これが終わったら、飯食いに行こうか」

こくりと頷いた犬山の頬が少しだけ緩んだように見えた。
犬山は滅多に笑みを浮かべない。
常に無表情か、それか嫌悪感をあらわにした表情しか見せない。
それから、大神の前や風紀の役付きの前でしか話さないのか声も聞いたことのある生徒も少ない。

九津は、一度だけ犬山の表情を崩させたことがある。
それから、小さな声も聞いた。
その声をもう一度聞きたい。
ずっと、そう思っていた。


「会長様早くこっち来てくんね? 終わんねーだろ。ココちゃん仕事速いんだからさあ」

「ワンワンうるせえな。今行く」

少し離れた位置で、副委員長と仕事をする犬山は今日も相変わらず無表情だった。
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