怪我
あれから、心路はリハビリにも懸命に努めて、左腕はしっかりとは動かせないが、それほどまでひどい後遺症は残らなかった。
心路には花咲や勇気は転校したと伝えた。
花咲も勇気も少年院に入ったし、裁判も無事に終わった。
花咲は二度と心路と接触することのないように手はずも整えた。
心路は昨日退院した。
クリスマスパーティーのあとはすぐに冬休みになったから、風紀の仕事も気にしなくてよかった。
丸々1ヶ月近く休み、退院した翌日から冬休みが終わるため、学校生活もはじめる。
「心路、大丈夫?」
そう尋ねれば、ふわりと笑った心路が振り返る。
ネクタイが結べないようで、すぐに結んでやれば眉を寄せた姿が見える。
「ネクタイ結べないのは困る」
「俺が結んであげるから大丈夫だよ」
「そっか」
そう笑った心路に、古道は口付けた。
それから腕章を左腕に通す。
「なんか、まだ新年度とかじゃないのに、新しく始めるみたいなきもち」
「…たしかに、そうだね」
「よろしくね、風紀委員長様。黒髪、似合うよ」
心路の言葉に古道は笑った。
あれから、古道は髪は黒く染めた。
幼い頃の髪色に戻った古道に、心路が喜んだことを思い出す。
少しゆるく着崩してはいるが、以前ほどじゃない制服は少しだけ居心地が悪い。
心路もあご先まで伸びていた髪を耳元まできった。
「真面目に見えるかなぁ」
「ココちゃんは大丈夫だよ、問題は俺」
「古道も大丈夫だよ、かっこいい」
「ありがと、心路はとってもキュートだよ」
ふざけるような言葉に、心路が声を上げて笑う。
あどけない、幼い笑い顔に古道も表情が緩む。
「よし、行こうか、副委員長様」
古道の言葉を聞いて、心路はしっかりと前を向いた。
寮の部屋を出て、校舎へ向かう。
「よお、犬山、大神」
「おはよ、バ会長」
「ばかいちょー」
手をひらひらとふってくる会長に、心路と古道は手を振り返しながら答えた。
会長はぶつぶつと文句を言いながら、心路のとなりを歩く。
「なに、普通に一緒に行こうとしてんの。バ会長。いま心路とらぶらぶ登校中なんですけど」
「じゃましてるんだよ」
「うっざー」
「かいちょーうざーい」
古道の真似をして言う心路に、会長が笑顔を浮かべた。
変なの、と古道の腕を抱きしめた心路に、古道が笑う。
寮から学校への道のりをこんなに賑やかに過ごすのは初めてだった。
「あっ、ひーくん!」
心路の視線の先には、光がいて、心路は駆け寄った。
「もう大丈夫か」
「ん! 腕あんまうごかないけど、げんきっ副委員長がんばるよっ」
「心路はえらいな」
そう言って微笑んだ光に心路がぎゅっと抱きつく。
ありがと、と伝えてから、行こうと手をつないだ。
「榎本っずるいぞ」
会長の叫び声が聞こえてきて、光が笑った。
後ろを向けば、古道が優しい顔をしてる。
それが嬉しくて、心路も笑顔がこぼれた。
「心路、上手に笑えるようになったね」
古道は、そう呟いてから、左肩を撫でた。
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