紹介
明るいスポットライトの中、心路は心臓の音を聞いていた。
どくん、どくんと大きな音を立てる心臓は、心路のものだ。
生きてるなあ、なんてことを思いながら、そっと目を開いた。
目の前にはたくさんの生徒の目がある。

「この度、風紀委員長になりました、大神古道です。桜庭元委員長の意思を引き継ぎ、学園をよくしていきたいと思います。よろしくおねがいします」

古道の短い挨拶のあと、マイクを受け渡される。
指先が触れて、息を吐きだした。

「風紀副委員長になりました、犬山心路です。委員長を支え、生徒の皆さんが安心して学生生活を送れるよう、努めたいと思います。よろしくお願いします」

心路の声は小さかったが、マイクを通して、生徒の耳へ届いた。
綺麗な澄んだ声に、ザワザワとしていた講堂が静まり返る。
古道と合わせて頭を下げてから、退場した。
カーテン裏で控えていた聖とセイがにこりと笑ってくれた。

「心路、古道」

嬉しそうに上ずった聖の声に、古道が笑って、心路も釣られて笑う。

「心路、がんばったね」

そう言って抱きしめてくれた兄の腕を、心路は心地よく感じた。

クリスマスパーティーは何事もなく無事に終わった。
風紀委員の挨拶後もふたりは遠巻きに見られている。
なんせ、暴力者として有名な古道と、古道に囲われていると噂の心路が風紀委員の長になったから、なかなか声がかけられないようだった。

「ま、そんなもんでしょ」

そう言って笑う古道に、心路も苦笑する。
風紀委員会は会場の後片付けもあるから、最後に退場することになっている。
会長と風紀委員長、副委員長はそのなかでも一番最後に退場しないといけない。

「犬山先輩っ」

「白井君」

「はわわ、犬山先輩の愛らしい声が聞けるなんて、俺感極まってイっ」

「白井っ」

ぼかっと乱暴な音と共に、黒瀬に頭を殴られ白井が顔をくちゃっと歪めた。
それを見て、心路が笑えば、白井と黒瀬が目を細める。

「これを大神先輩が独り占めしてたのはずるいなあ」

「それなっ」

古道が近づいてきて、白井と黒瀬の頭をこつんと叩く。
それから心路を抱きしめて笑った。

「ほら、白井クン、黒瀬クン、君たちの報告が最後なんだから、早く」

「あっ、すみません、いいんちょー」

ふたりが言いづらそうにそういうのを聞いて、心路は笑った。
報告は簡易なもので、ふたりに帰っていいと伝える。
最後に会長と、一緒にわすれものがないかを確認して、心路は講堂の鍵を占める。
ふいに視線が気になって、心路はあたりを見渡した。
講堂脇の予備室のドアががちゃりと音を立てるのが聞こえる。
ぞわりと背中が泡立って、先を行く会長と古道の方へ急ごうと、踏み出す。

「心路ー、どうした?」

「ううん、なんか」

「犬山っ」

大きな会長の声が聞こえて来て、心路は息を飲んだ。
気づいたときには誰かに腕を強く引っ張られ、準備室に引き込まれた。

静まり返る end
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