クリスマスパーティー
クリスマスパーティー。
講堂で行われる、立食パーティーはビュッフェ式になっていて、席は各グループ学年関係なく組まれていた。
たくさんの丸テーブルを囲む姿を横目に皆がら、古道と心路は生徒会、風紀委員会のテーブルへ向かう。
途中、腕章をつけたふたりを見て、驚いたように目を見開く生徒たちがいたのを見て、心路は小さく笑った。
生徒会の挨拶はもう済んでいて、今は雑談の時間だ。
おのおの好きに会話を楽しんでいる。
聖とセイもそれは同じで、会長と光と楽しそうに話をしていた。
ふいに心路は古道に手を引かれて、視線を移す。
壁に寄りかかり、古道を見上げた。
「心路、あのさ」
「ん?」
「…心路、副委員長になるし、ほかのみんなとお話していいから」
「…ん、そうだ、よね、お話しないとだよね」
少しだけさみしそうな古道の手をギュッと握る。
同じように手を握り返してくれた。
「ココも、大人にならないとだよね」
そう言って、古道を見上げて笑う。
古道は少し驚いたような顔をしてから、笑い返してくれた。
「もうちょっと俺だけのココちゃんでいて欲しかったな」
「こころはずっと古道だけのだよ」
甘い声が出て、心路は思わず笑った。
「おい、新風紀、イチャついてんじゃねーよ」
不意に最近聞きなれた声が耳に入り、心路はそちらへ向く。
不敵な笑みを浮かべている会長が近寄ってきていて、心路はげぇと舌をだした。
「バ会長」
「バ会長、どうした」
「ばかばかうるせえな、風紀、よろっとお前らの挨拶の番だから、呼びに来ただけだっつうの」
「どうも、バ会長」
「ばーかばーか」
「犬山、お前そんなキャラだったか?」
きゃっきゃ笑う心路に会長も、ふにゃりとわらった。
その顔がとても優しくて、心路はむっとした。
背の高い会長の足を踏んでから古道の背中に隠れる。
「まあ、なんだ。よろしくな、新風紀ども」
会長の言葉に、心路と古道は頷いてから、聖とセイの元へ向かった。
「続きまして、風紀委員会からの挨拶です。風紀委員長、桜庭聖さん登壇願います」
聖の凛とした返事が講堂に響いた。
古道と心路もカーテン裏に控える。
聖のとなりたつセイの顔は少し寂しそうだった。
「セイ兄さんも、この学園のこと、大好きだったからなあ」
「そうだね、…古道、ふたりでがんばろうね」
「ん、心路」
古道が額に優しく口付けてくれる。
まっすぐに前を見て、聖とセイを見つめた。
「風紀委員会、委員長、桜庭聖です。みなさん、今年も残るところあと少し、勉学、部活、委員会活動、いろいろなことに精をつくしたと思います。ですが学生生活はまだまだ続きます。悩むこともあると思います。たくさん悩んで、傷ついて、人は成長していくものだと僕は考えています」
聖の言葉はいつも受け止めやすい。
その話し方が、心路は大好きだった。
「さて、堅苦しい話はここまでにして。僕個人の話をさせていただきます。皆さん、夢はありますか。こんな話出しは少し恥ずかしいのだけど、僕には夢があります」
いつもなら、騒がしくなる講堂も、聖の声音で静かになった。
それに合わせて照明がゆっくりと落とされる。
みんな、聖の話に引き込まれていくようだった。
「僕の家族が幸せに暮らせるようにしたい。そんな些細な夢です。その夢のために、僕達はひとつの選択をしました」
聖はとなりのセイを見て、笑いかける。
セイも同じように笑ってくれた。
「この学園では、たくさんのことが学べる。普通の学問だけじゃない、たくさんのことを。それでも、僕達はもっとたくさん学びたい。だから、留学をすることをここで伝えたいと思います。よって、風紀委員会を引退したいと思います」
聖とセイが頭を下げて、ようやく講堂がざわざわとし始めた。
悲鳴や泣き声が聞こえてくる。
生徒会と並ぶくらい、風紀委員会を治めるふたりは人気だったのだ。
古道と心路はぐっと息を飲んだ。
「心路、大丈夫?」
「…大丈夫、大きな声出せるかな」
「大丈夫、絶対。ココちゃん、これ終わったら、お部屋に帰ったらえっちしよっか」
「へ?」
「頑張ったからにはご褒美貰わないとでしょ」
古道の言葉に心路は思わず笑った。
それから、まだ終わってないでしょ、と古道の腕にぶつかってみせる。
緊張がほぐれて、心路は深呼吸した。
「それでは、新風紀委員長、副委員長、お願いします」
アナウンスに誘われて、ふたりは聖とセイのもとにしっかりと歩みを進めた。
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