神様なんていない
桜の木には、真っ白な雪が降り積もっていた。
心路はその白い雪を見上げながら、ほうっと息をついた。
どんよりとグレーに澱んだ空は、ふわりふわりと軽い雪をこぼしている。

「綺麗だね、心路」

となりに立った古道がそう呟くのを聞いて、心路は小さく笑った。
確かに、真っ白く染まりそうな視界はとっても綺麗で、なんだか泣きたくなった。
寒さに指先が真っ赤に色づいた。

「ね、古道。心路ね、思うんだ」

かすかな声で、そう呟く。
ずっと考えていた。
今までのことを。
古道と出会って、恋をして、悲しい思いもたくさんした。
嫌な思いだって、嬉しい思いだって、心路の世界はたくさんの思いで彩られている。

「古道と出会って、よかったなって」

自然と浮かんだ笑顔はとても痛くて、冷たくなった鼻先がじんと凍みた。
それでも、頬を流れる涙は温かくて、優しい。

「ああ、生きてるなって、思うの」

ぎゅっと冷たくなった指先を握る。
大きな手が触れてぎゅっと握ってくれた。
それが嬉しくて、また心路はぎこちなく笑う。

「俺も、心路と出会って良かったよ」

その一言が胸を温めてくれる。
真っ白な雪が古道の髪に積もっていく。
同じように髪に雪が積もっているのか、とても頭が冷たかった。

「心路、これからも、俺とずっと一緒にいてね」

「うん、こちらこそ」

そう言って笑いあって、心路は足元の雪を見下ろした。
純白の、真っ白く染まった地面はまだ誰の足跡も残していない。


もうなにも気にしなくていい。
ここに、もう心路を煩わせる存在はいない。
心路が気にかけることなんて何一つない。
なにも覚えてなくていい。
それでも、自分たちの未来を切り開いていくのは神様なんかじゃない。

「結局、神様なんて、いないんだよ」

神様なんていない end
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