初めてのお話-一緒にDVD編-
お風呂から上がってから買ってきたごはんを食べた。
コンビニのお弁当は味付けが濃くて初めて食べる味に何度か首を傾げる。
とろとろのオムライスの色の濃いデミグラスソース。
「うまくねぇか?」
「味が濃いかも、初めて食べた味」
「そうか。明日の朝と昼は俺が作るから」
「…、な、直樹さん、料理作れるんですか…?」
小さな声で尋ねるともちろん、と返事が返ってきた。
それから、もう十何年も一人暮らしだからな、と続ける。
不意に直樹の手が伸びてドキリとした。
指先が頬を撫でていき、その後直樹はその指をペロリと舐めた。
「あっ、」
かぁっと頬が赤くなって、意識をし過ぎている自分にもっと恥ずかしくなる。
頬を染めた素直に、直樹はあー、と声を出してガシガシと後ろ髪を掻いた。
「ほんと可愛いな」
小さな声で呟かれた言葉にもっと赤くなる。
恥ずかしさのあまり俯くと、直樹の手が伸びてきてくしゃくしゃと髪を撫でられた。
食べ終わった後のプラスティックを洗う直樹の姿を見ながら頬に触れる。
この赤くなりやすい頬が恨めしくて、きゅっと摘んだ。
真っ暗になった窓の外を見て、ここがいつもの寮ではないことをしみじみと感じた。
「素直、ソファーに座っていいぞ」
「あ、はいっ」
直樹に言われたままいそいそとソファーの端に腰を掛ける。
テレビもつけずにぼんやりと外を眺めていると、蛇口を閉める音が聞こえた。
ドキドキとしながら待っていると、直樹は素直の隣に腰を下ろす。
狭いソファーで、素直と直樹の距離は指一本くらいの近さ。
「DVD見るか」
こくりと頷くと、直樹はゆっくりと立ち上がってDVDをセットする。
お笑い芸人のコントが収録されているDVDで、少し緊張が解けて肩の力が抜けていく。
くすくすと小さく笑う素直と大きな声で笑う直樹。
ふたりの笑い声が部屋に響く。
買ってきたお菓子を開けて、食べる。
塩の効いた病みつきになりそうな味に、直樹に笑いかけると、直樹も同じように袋に手を伸ばした。
「直樹さん、これも、食べていい?」
コンビニの袋から出てきたのは、キスの名前がついたチョコレート。
箱を開けて包装を外し、指先で摘んで口元まで運ぶ。
口の中で転がすとチョコレートはすぐに溶けていく。
「わ、…美味しい!」
「そうか、良かった」
DVDは終わり、別のものに変える為に直樹は立ち上がる。
もうひとつ、とチョコレートを口に含んだ。
「あまい」
「素直、甘いの好きか」
「はい、好きです」
「そうか」
直樹が戻ってきて腰を下ろした。
それからチョコレートを一つ手に取って、口に含む。
あ、これ美味いな、直樹が笑ったのを見て、素直も小さく笑う。
次に見始めたのは静かな画面が続く、昔の小説を題材にしたものだった。
不意にチョコレートが食べたくなって手を伸ばそうと動いたとき、硬く温かい手に触れた。
びくりと指先を震わせると、ぎゅっと手を握られる。
驚きのあまりに声を出せないでいると、直樹が握っていないほうの手で素直の頬を撫でた。
「…素直」
甘く低く、まるで口の中で溶けるチョコレートのような声色で、名前を呼ばれた。
目を瞑って、と囁かれて、その通りにする。
きゅっと瞑った瞼の目の前で直樹の顔を想像する。
唇にあたたかな吐息が触れて、柔らかな唇がかすかに触れて離れた。
「あ…」
「もう一回」
そう笑い声が聞こえて、もう一度唇が触れた。
もうDVDの声は聞こえず、柔らかなキスと、笑い声が部屋に響いた。
初めての話-一緒にDVD編-
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