寝起きの話
「直樹、風邪引かないようにちゃんと布団かぶってよ」
「お前、母親みたいだな」
クスクスと笑われて、素直は顔を赤くしむすっとした。
新婚さんみたい、と言われれば恥ずかしい半面嬉しい。
が、母親みたい、と言われては嬉しくない。
もぞもぞと寝返りを打って、直樹に背中を向けた。
「素直、怒るなって」
「やだ。直樹嫌い」
「嫌い?」
「…うそ」
直樹の優しい声と大きな腕に包まれて、ほだされながら答える。
こっち向いてごらん、と耳元で囁かれて、たまらなくなって振り返った。
ニヤッと笑った直樹にため息をつきながら、腕の中に納まる。
「可愛い。…お休み、素直」
「おやすみ、」
就寝の挨拶をしてから、電気をそっと消して目を瞑った。
直樹の温かい腕にすぐに意識は連れていかれて。
「…ん、」
目を覚ますと、窓の外は薄らと明るくなってきていた。
のそのそと起き上がれば、直樹の腕が腰に回る。
年をとっても変わらない腕の太さと筋肉の量に思わず笑みがこぼれる。
ごめん、ちょっと出るね、と囁いて直樹の腕に触れてから、その甘い腕の中から外に出た。
テレビをつけて、直樹が起きないくらいの音量にしてから台所に出る。
今は朝の6時だ。
休みにしては早めの覚醒。
「ちょっと早すぎたかも」
とりあえずトイレに行ってから、部屋に戻って、ベッドに腰をかけた。
ぐっすりと眠っている直樹の顔をじっと見つめる。
無精髭が生えていて、目元のしわがくっと寄っていた。
きゅっと手を握って見ると、しわが薄くなる。
「はは、かわい」
小さく笑って、直樹の頬にキスする。
今日は早く起こして、散歩にでも行ってみよう。
そんなことを考えながら、素直は台所に立った。
わかめを水で戻し、お豆腐をさいの目切りにする。
鍋を火にかけ、水を沸かしだしを入れた。
その中にわかめを入れて、味噌を溶き、お豆腐を入れる。
それから明日の朝食にと買ってきた鮭を冷蔵庫から取り出した。
「我ながら料理がうまくなった気がする」
お味噌汁を味見しながら、そう呟いてから鮭に取り掛かった。
「なーおーき、起きて」
ベッドに腰をかけて、直樹の顔を覗き込みながら声をかける。
ポンポン、とお腹のあたりを叩くと、直樹はあー、と低い声を出しながらのそりと起きた。
「おはよ」
「…ああ、おはよう、素直」
ポンポン、とお返しをするように頭を撫でられて、素直にきゅっと唇を閉じた。
どうした、と尋ねてくる直樹に首を振って何もないよと答える。
「ただ、幸せだなって思っただけ」
と、蕩けそうな顔をした。
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