デートの話
「あ、もしもし。駅着いた。直樹どこ」

電話の向こうから、素直にも聞こえている音楽が聞こえてくる。
見つけた、と声が聞こえてあたりを見渡すと、喫煙所で煙草を片手に手を振る姿が目に入った。
通話を切ってから喫煙所に向かう。

テスト明けの12時30分。
いつもなら学校の食堂でのんびり昼食を取っている時間。
素直は寮長に外泊届を提出して、街に繰り出していた。
待ち合わせ相手は煙草を灰皿に押しつけると、喫煙所から出てくる。
それから素直を見つめ、小さく笑った。


「直樹っ」

本当はぎゅっと抱きついて、服に沁みついた煙草の香りをうんと嗅いでしまいたい。
そんな思いを押さえつけて、素直は直樹に笑いかける。
煙草をポケットにしまった直樹はそんな素直にまた笑みを零す。
目元にできた小さなシワに、心臓が締め付けられた。


「久しぶりだな。ちゃんと外泊届出してきたか」

「うん、出してきた」

「それならいい」

行き先は決まっていて、ふたりはゆっくりと歩き出す。
久しぶりにこうしてデートをするから、少しだけ緊張している。
素直は隣を歩く直樹をそっと見上げた。


「ん? どうした」

「ううん、久しぶりだなって思って…」

「まぁ、二週間ぶりか。テスト週間以外はこっちに来ていたからな」

こくりと頷いて、視線をそらす。
直樹はそんな素直に笑い、ポンポンと頭を撫でた。
子どもにするような仕草は、いつもなら嫌がるけれども、今日は嫌がらずに甘んじる。

映画館について、チケット売り場の前で立ち止まる。
直樹はあたりを見渡してから、映画久しぶりだな、と呟いた。


「素直、何見たいか決めてきたか」

「ホラーか、あの…なんだっけ。初恋、思い出してみないみたいなで迷ってる」

「ホラー? 怖がりなのに見れるのか?」

「友達が、見に行って少しだけ内容聞いたら気になって」

「じゃあ、それにしよう」

ニヤリと笑った直樹に、素直は少しだけぞっとした。
ホラー映画は嫌いだ。
でも直樹が好きだから、素直も一緒に見ることがある。
その時は大体泣きべそをかきかけながら見ていた。

チケットを購入して、映画の必需品であるポップコーンと飲み物を買う。
素直はストレートティ、直樹はコーヒーを頼んだ。


「そう言えば、初めてふたりで映画館来た時、お前ポップコーンとかも初めて食べたんだよな」

「…も、その話やめて。恥ずかしいだろ」

「こ、これなにって恐る恐る食べるのが可愛かったな」

「直樹っ」

かぁっと頬を染めた素直に、直樹は意地悪そうに笑う。
トンと肩を叩いて、やめろよな、と怒って見せた。
そんな風にじゃれ合っていると、アナウンスがかかりふたりはシアターに向かう。

席は真ん中のブロックの最後列の真ん中を選んだ。
ほとんどの客は真ん中のブロックの前の方を選んでいて、後ろの方に居るのは素直と直樹だけだ。
予告や注意を見ているとだんだんあたりが暗くなってきて心臓がドクドクと動いていくのがわかる。
直樹、と小さな声で名前を呼んだ。


「素直、怖いんだろ」

「…ん」

肘掛に手を乗せると、直樹がその上から手を握ってくれる。
膝に置いたポップコーンが落ちないように体勢を変え、直樹にそっと近寄った。
直樹の大きな手は成長期を終えたばかりの素直の手よりもずっと大きい。
その手に安心しながら、温かいストレートティを飲んだ。

映画を見終えてから、ふたりは近所のラーメン屋に入った。
醤油ラーメンをふたつと餃子がテーブルに並んでいる。
ラーメンの麺をうまくすすれない素直はレンゲにまとめたラーメンをせっせと口に運んだ。


「相変わらずラーメン食うの下手だな」

「うるさいー」

「生粋のボンボンだもんな、素直ちゃんは」

「直樹はしがないサラリーマンだろ」

軽口を叩きながら餃子をタレにつけて食べる。
不意に直樹の手が伸びてきて、口元をぬぐった。


「んっ」

「子どもか。ついてたぞ」

「ありがと」

むっとしつつも礼を伝えて、素直はまたラーメンに集中する。
それからちらりと直樹に視線を向けた。


「直樹、寂しかった?」

「まあな」

「…俺も、寂しかった」

小さく呟くと、今度は大きな手のひらが頭を撫でてきて、素直はその手の優しさにそっと目を瞑った。


デートの話。
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