テスト週間の話
「しろ、元気ないな」

寮のベッドの布団の中からひょっこりと顔を出しながら、参考書を見ていると友人にそう言われた。
直樹と会えなくなって一週間。
電話もしていないし、夕方にあったりすることも控えていた。
前は耐えれたから大丈夫だと思っていたけれど、今回はあっけなく寂しいという気持ちがあふれ出しそうになっている。


「電話してもいいんじゃないか? ちゃんと勉強してるし平常点も稼いでるだろ」

「うん…。でも勉強、教えてもらったからいい点とりたい。それに電話するの、少し恥ずかしい」

「別に、恥ずかしくないだろ。俺は席外すし。…我慢してしんどいのより電話して楽になった方がいいだろ」

「そう、だよね…。うん、電話する。ありがとう」

ポンポンと頭を撫でられ、頷く。
充電していた携帯を開くと100パーセントになっている。
これなら、途中で電源が切れることもない。
出ていく友人の背中を見ながら、素直は直樹の電話帳を呼び出した。
それから電話番号をタップして、耳におずおずと当てる。
呼び出し音を聞きながら、泣きそうになるのをこらえる。
会えないことがこんなにも堪えるとは思ってもいなかった。
五回目の呼び出し音が少しなってから、それは止まった。


『もしもし。…素直、どうした?』

「ん…、直樹。あの…、ごめん」

小さな声でそっと謝ると、直樹の笑い声が聞こえてきた。
その声がとても優しくてほっとする。
布団にくるまったまま身体を起こして正座した。


『勉強、はかどってるか』

「…うん、今休憩してた。直樹何してるのかなって思って…」

『俺か? 俺は今は仕事してた』

「あっ…、ごめん…」

また目頭が熱くなってきて、鼻をすするのを我慢する。
正座から体育座りになり、膝を抱えた。
寂しいという気持ちが大きくなってはじけてしまいそうだ。


『俺も休憩するところだったから、電話くれてよかった』

「ん。…直樹、」

『んー? どうした』

頭を撫でられたり、手をつないだり、していた時のことを思いだす。
寂しくて、寂しくてたまらない。


『素直、寂しかったんだな』

「…、ううん、直樹が寂しいと思って、」

『はは、…ああ、俺も寂しかったな。素直は?』

からかうような笑い声の後に優しい声で囁かれて、思わずポタポタと涙が零れ始めた。
直樹の手のぬくもりを思い出してしまい、布団をぐっと握りしめる。
あふれ出した涙はもう止められなくて、布団に痕をつけた。


「ん…うん。ごめんなさい、うそ、寂しい。会いたい、すごく寂しい…」

『あぁ、俺も会いたいよ。素直』

こくんと頷いて布団から這い出た。
それから財布を手に取って寮の部屋をそっと抜け出す。
ぐずぐずな鼻をすすりながら、共同ルームに向かった。


「ごめんなさい、会いにいっても、いい?」

『…外泊届、もう出せないだろ』

「友達が寮長だから…。おねがい、直樹、明日の朝すぐに帰るから、」

『わかったよ。危ないから迎えに行く。寮で待ってなさい』

「うん、うん、…わかった」

共同ルームで缶コーヒーを飲んでいる友人を見つけて、通話を切る。
ポケットにしまってから、友人の前で頭を下げた。


「ごめん、見逃して」

一瞬いぶかしげに眉をひそめた友人にもう一度頭を下げて、走り出す。
裏口のカギは数日前から壊れていて、その扉を開けて飛び出した。
ごめん、と心の中で謝りながら、学校を囲む塀を越える。

薄着のまま飛び出してしまったせいで、とても寒い。
カタカタと身体を抱いていると、携帯が鳴った。


『どこにいる? タクシー見つけたら、手を振って』

「あ、えっと、あっ、」

タクシーを見つけてぶんぶんと手を振った。
脇に停まったタクシーの扉が開き、素直は乗り込む。
少しだけ怒ったような顔をした直樹は素直を見るなり、こつんと頭に拳を当てた。

タクシーで家まで送ってもらい、二人はまだ温かい部屋に入った。
ぎゅっと握られた手を引き寄せられて、素直はほっとする。
そのまま抱きしめられて、背中に腕を回した。


「そんな薄着で…、風邪ひいたらどうするんだよ」

「ごめんなさい…」

直樹の体温が心地よくて、落ち着いてくる。
ゆるゆると力を抜いて、直樹から身体を離した。
伸びてきた手が頬を撫でて、髪を撫でる。
額を合せて、それからキスをした。


「ん…っ、んっ…ぁ、なおき、もっと、」

何度も求めあって、ベッドに倒れこむ。
熱くなった吐息に、素直は涙をこぼした。


「直樹、抱きしめて…」

そう呟いて、直樹に手を伸ばす。
覆いかぶさった直樹が小さく笑ったのを見て、素直はそっと目を瞑った。

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