勉強の話
チクタクと時を奏でる音の中、シャープペンシルをくるくると回した。
頬杖をついて、ぼんやりと数学の教科書を眺める。
隣から聞こえてくるカタカタとなるキーボードを打つ音が大きくなっていく気がして、集中が切れた。


「わからないのか」

不意に直樹の声が聞こえてきて、顔を上げた。
直樹は滅多にかけない眼鏡をかけていていつもと違う雰囲気にドキリとする。
思わずじっと見つめてしまい、見つめていることに気付いた素直はぎこちなく視線をそむけた。


「ん、ここ」

「あぁ、Xはここ。Yにはこの数字を入れて…、素直?」

「…」

「すーなお」

「あっ、えっ。うん」

直樹の横顔をじっと見つめてしまって、話を聞いていなかった。
訝しげに眉をひそめた直樹にごめん、なんでもないよ、と小さく呟く。
ポンポンと頭を撫でられて、素直は頬が熱くなるのを感じた。


「直樹、頭いいんだね」

「そうかー? まあ、一応勉強だけは頑張ってたからな。…素直、この問題解いたらやめにしたらどうだ」

「うん、そうする。…2時間しか集中できなかったなぁ」

「2時間も頑張ってたらいい方だろう。…1時間やったら10分休むとか、こまめに休憩とってやっていった方がいいかもしれないな」

「うん」

最後の問題が解けて、答え合わせをする。
間違っている問題もなく、プリントをファイルに片づけた。
ファイルごと鞄にしまってからソファーにもたれかかり、直樹の背中を手のひらで押す。


「んー、疲れたかも」

「頑張ってたもんな。…これでよしっと」

「仕事、終わった?」

「終わった。素直ー」

名前を呼ばれて、直樹の方を見る。
直樹はにっと笑ってから素直の唇に軽くキスをした。
それから、頬を撫でて髪を撫でる。
前髪をかきあげられて、きゅっと目を細めた。


「直樹、なにー」

「んー、綺麗なデコしてんなって思って。それに、綺麗な目」

額をぱしんと軽く叩かれてむっとする。
仕返しをするように直樹の手の甲を摘んだ。
直樹の笑い声が聞こえてきて小さく笑う。
こんな風にゆっくりと一緒に過ごす時間が好きだ。
時計の音はもう聞こえてこない。


「直樹」

「どうした?」

「んー、幸せだなって…」

「そうか」

こてん、と直樹の肩に頭を乗せた。
煙草の混じった香りがして、そっと目を瞑る。
ポンポン、と頭を撫でられて、その心地よさに微笑んだ。


「また、勉強教えて」

「あぁ、俺が教えられる範囲だけどな」

「それで十分だよ」

そう笑ってみせると、直樹もおんなじように笑ってくれた。
少しだけ恥ずかしくなって顔をそらす。
伸びてきた大きな手のひらの心地よい感覚に、目頭が熱くなるのを感じた。

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