少し太ったかな?の話
お皿についた泡を落とす音が聞こえてきて、素直は幸せなため息をついた。
台所の方を見ると、直樹が鼻歌を歌いながら洗い物をしている。
直樹の後ろ姿を眺めていると、なんとなくその後ろ姿に違和感を感じた。


「なーおきっ」

直樹に近寄って後ろから抱き付く。
滅多にしない行為にドキドキとしながらも、後ろ姿に感じた違和感の原因に気付いた。
スウェットの上からお腹を摘む。
むにっと摘めたお腹に素直は、笑みを零した。


「直樹、太ったなぁー!」

「おまっ、ちょっ」

ばしゃっと水音を立てて、お皿が溜めた水の中に落ちる。
手に冷たい水を感じてわっと声を漏らした。


「なんだ、珍しく素直から抱き付いてきたな、と思ったら、太っただとー」

「ほんと。なんかちょっと大きくなったかなって見てて思ったから、摘んだらこれくらい」

直樹のお肉と同じくらいの隙間を右手の親指と人差し指で作る。
にこっと笑うと直樹がむっとするように眉間にしわを寄せた。
それから低い声で素直を呼び、素直を強く抱きしめる。


「わわっ、直樹、腕の力強いっ」

「まいったか!」

「んーっ、まいったぁー」

「よし、いい子だ」

仕返しをされるようにちゅっと唇にキスをされて、素直は目を見開いた。
なに、驚いてるんだよ、と言われ、素直はもー、と呟く。
トンっと直樹の肩に頭を乗せて、もう一度むにっとお腹を摘んだ。


「ふふ、」

「お前なぁ」

「直樹、運動…しちゃう?」

直樹から少し離れて、こてんと首を傾げる。
それからなるべく甘めの声を出して、精一杯のぶりっ子をしてみた。
一瞬驚いたような顔をしてから、直樹は後頭部をガシガシと掻きながら素直の頭を撫でる。


「夕飯前に歩かないとだなー」

「もーっ、」

「…明日、学校だろ。また来週…な」

「っ、」

直樹の低い声に心臓がドクンと高鳴った。
それから小さく笑みを浮かべ、もう一度素直の唇にキスをする。
もお、ともう一度呟いてから、直樹に抱き付いた。

少し太ったかな?の話
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