写真の話
学校が早く終わり、直樹よりも先にアパートに来た。
来たというよりも、帰ってきたの方が正しいに近い。
一週間来ないだけで、直樹の部屋は少しずつ汚くなる。
ソファーにだらしなくかけられた寝間着と前日に着ていたであろうYシャツを見て、思わず笑いが零れた。
「きっと、こーやって地面に置いてあったのを、俺が来るからソファーにかけたんだろうなぁ」
もう一度床に置いてそこにしゃがみこんで、シャツを見ながらまた笑う。
床に置いたYシャツを手にとってスンと匂いを嗅いだ。
「ちょっと汗臭いかも。会社、暖房効いてるのかなぁー。お洗濯、お洗濯ー」
独り言を言いながら、Yシャツと寝間着を持って洗面所に向かった。
それから洗濯機を開けて、Yシャツと寝間着を入れて洗剤、漂白剤、柔軟剤を入れてセットをする。
そのあと、お風呂を洗い、栓を閉めてセットをする。
鼻歌を歌いながら部屋に戻って、携帯を手に取った。
「ん、メール」
メール画面を開いてみると、直樹からのメールが入っていた。
なんだろう、と開いてみると、夕食は買って帰るからゆっくりしてろ、とそっけない文面が呼び出される。
「そういえば、最近お弁当屋さんのCMの携帯で簡単にーっていうのがやっていたからかな」
そう呟きながら笑いながら、ソファーに腰を下ろす。
ふとテーブルの上に置かれたアルバムに目がいき、手を伸ばした。
そのアルバムは、素直と直樹の写真が入っているものだ。
「ん、アルバム、見てたのかな」
アルバムを持ち上げたら、バサバサと写真が落ちてきた。
それと同時にチャイムが鳴る音が聞こえて、素直はアルバムと写真をテーブルに戻して玄関に出た。
「おかえりなさいっ」
ドアを開けると、両手にお弁当屋さんの袋を持った直樹が立っていた。
急いで出てきた素直に直樹は驚いた顔を見せ、その後に優しい声でただいま、と返す。
素直はそんな直樹を見て、きゅうと心臓が締め付けられた。
両手の袋を受け取ってから中に入る。
直樹もスーツの上着を脱ぎながら、部屋に入った。
「直樹、上着かして。かけてくるね。あと、スウェット、洗ったから今新しいの持ってくる。それとも、お風呂入る?」
「いや、先に夕飯にしよう。豚汁とカキフライ弁当だぞー」
「カキ、今時期だもんね」
ふたりで一緒にソファーに腰を下ろす。
直樹が袋を開けるのを見ながら、素直はテレビをつけた。
「あ、直樹、ごめん。アルバムから写真落としちゃった」
「ああ、これな。カメラの写真、増えてたから印刷したんだ、食べ終わったら見ような」
素直はこくりと頷いて、いそいそとお弁当を出した。
お弁当を食べ終えてから、後片付けをしてから後は寝るだけの格好になった。
それからソファーに戻って、写真を手に取る。
「この素直かわいいな」
「あ、この写真っ、初めて映画館行ったのだ。初デートだったよね、確か。だから中学三年生の時かな」
「そうそう。素直まだ背が低くて俺とこんなに差があったのか。はは、ポッポコーン抱えてる」
「うん。初めて食べたポップコーン、すごい衝撃的だった。こんな美味しいのあるんだ〜って」
「素直、感動して泣いてたもんな。その後だから、こんな顔赤いのか」
ケラケラと笑う直樹に、素直は顔を赤らめた。
やめてよ、恥ずかしい、という素直に、直樹は今度は小さく笑う。
ぽすっと足を叩くと、直樹が仕返し、とでも言うかのように直樹の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
その大きな手が好きで好きでたまらない素直は、なおさら頬を真っ赤に染めた。
「直樹、」
小さな声で直樹を呼ぶと、直樹は優しい声で写真を片手に素直の方を向く。
素直は直樹に軽くキスをしてから、そっぽを向いた。
「かんどうして、ないたから、赤かったんじゃないの。直樹と、初めてデートして、初めて、手をつないだから…」
「…っ、素直〜っ、可愛すぎだわ」
バッと抱きしめられて、素直はゆでだこみたいに真っ赤になった。
ひっと息を詰めてから、直樹を見ると、直樹の頬も赤くなっている。
直樹、と小さな声で名前を呼ぶ。
チュッと唇が触れ合って、それから、ソファーに上に押し倒された。
「わー、結構枯れてきたかなとか思ってたけどやっぱり、素直を前にすると駄目だな」
「ん…っ、直樹、顔赤いよ…」
「しょうがないだろ。あんな可愛いこと言われたら赤くならずにはいられないわ」
「ん、も、直樹ってば…、」
深いキスを受け止めながら、素直はテーブルに置かれた写真を見た。
今度写真見るとき、もっと赤くなりそうだな、と思いながら、素直は直樹の深い愛を受け止めた。
写真の話
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